:そこでクルマ中心から人間中心に、人間を中心にしてクルマのダイナミクス、クルマの動きはどうあるべきか、そんなことを研究していました。そして次はエンジンのチームに行きました。

F:藤原さんに引き抜かれたということですね。でもぜんぜん違う部署じゃないですか。デザインから人間工学というご専攻じゃ、燃焼のことなど何も分かりませんよね。

:でもそれは好きですからね、必死になって勉強します。その時点でもうGVCのアイデアがあって、それをやりたいと希望を出して、GVCなら操安だろうということになって、それ以来虫谷(虫谷泰典氏)とずっと一緒にやっているんです。

諦めた先に道があった

 大明神がケツ持ちで、ムッシー虫谷氏とタッグを組んで……なるほどこれは強力な布陣である。虫谷さんの3年前のインタビューはこちら

:虫谷はもともとサッカー選手としてマツダに入社したことはご存じですよね?

F:はい。サンフレッチェの前身であるマツダサッカークラブへ入り、ヨーロッパへ派遣されたものの、彼我の差を見せつけられて夢やぶれて帰国した、と伺いました。マツダに戻ってからも、初めのうちは「サッカー選手風情が……」と冷遇されたことも(このあたりは600回記念の復活記事を→こちら)。

:僕も同じなんですよ。虫谷はサッカー選手を諦めて操安にやってきた。僕はデザイナーを諦めて操安にきた。

F:その2人がこれからのマツダの方向性を示すクルマを造っている。これはいいですね。いい話だ。

:僕は結果としてデザイナーにはなれなかったけれども、たとえばこのハンドルの握りの形状なんかは、評価ドライバーが決めなきゃダメだよねということで前田(育男 常務執行役員)と一緒に僕がやっているんです。現在所属している部署は操安でも、実際にはデザインと深く関わっている。こんなことができる自動車メーカーは、多分マツダしかないと思います。

 自動車メーカーって、エンジンならエンジン、車体なら車体、デザインならデザインと部署ごとに明確に仕事が分かれているでしょう。同じ会社で同じクルマを造っているのに、まるで別会社のように産業構造からして違うんです。

F:そうですね。縦割りと言ってしまえばそれまでですが。

:まずエンジンと車体の開発が大きく分かれている。どんな会社でも分かれている。
 でもテスラなんかはそういうのに関係なく、みんなが一体になって開発しているんです。

 僕らのチームも同じように、部署とか関係なく、とにかくクルマの中で使えるものは全部使っちゃう。制御というのは考えようですからね。クルマにはいろいろなアクチュエーション(作動)があるわけです。ブレーキもそうですし、アクセルもそう。そのアクチュエーションをいかにうまく活用して、全体を1つにして、走る、曲がる、止まるをまとめていく。一体にする。これはやっぱり制御の勝負になるんですよね。

F:それができるというのは、規模感もありますよね。マツダくらいのボリュームだからできることで、これがトヨタだと難しくなってくる。大きさが違いますから。

:それはありますね。僕がパワートレインから操安に移ったと言っても、実は席が5メートルぐらいしか離れていないので(笑)。部署が変わったからと言っても、別に今でも隣にいるし。仕事も距離もすごく密着しているんですよね。

F:なるほど。いや面白い。いいですね。梅津さん、おもろいわ。

 で、スミマセン。このMX-30のEV。乗れば乗るほどいいクルマで、操安のエンジニアからお話を伺って、なおいいクルマと思えてきたのですが、何というか、EVらしさが感じられないんですよね。アクセルを踏んだらドカンとくる、あのICE(内燃機関)にはない異次元の加速感が。私が今まで乗ってきたEVの中で、最も加速感に乏しいのがこのMX-30です。

いいクルマなのだが、EVらしさが薄い。私の率直な感想をぶつけたら、「それが狙いです」と。どういうことなのでしょう……?
いいクルマなのだが、EVらしさが薄い。私の率直な感想をぶつけたら、「それが狙いです」と。どういうことなのでしょう……?

:ええ、そこがポイントですから。

F:ポイントというと、あえてドッカンを消したということですか?

:あえてというか……ドッカンを出すのなんて簡単なんですよ。モーターにたくさんの電気を送ればいいだけの話ですから。

F:そうですよね。造作ないことですよね。でもそれをやっていない。なぜですか。

:ドッカンは一時的なはやりだと思うんですよ。それに僕ら、このクルマはEVだからEVらしさを演出しましょう、なんて1ミリも思っていなくて。EVだからこそできることはキチンとやりますけど、EVらしさを造ろうなんていうのは1ミリも思っていない。

F:うーん。そこはどうなんだろう。EVにドッカンを求める人って結構多くないですか? やっぱり気持ちいいですもの。

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