フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):今回バイクを開発するにあたり、一番気を使ったところを教えてください。まずは軽くする。そして剛性を下げてオフロードにおける走破性を高めた、というところまでは伺いました。

本田技研工業 二輪事業本部 ものづくりセンター 商品開発部 商品開発課 ACE 杉山 栄治さん。今回はフェル宅と熊本を結んでのオンライン取材となった。
本田技研工業 二輪事業本部 ものづくりセンター 商品開発部 商品開発課 ACE 杉山 栄治さん。今回はフェル宅と熊本を結んでのオンライン取材となった。

本田技研工業 二輪事業本部 ものづくりセンター 商品開発部 商品開発課 ACE 杉山 栄治さん(以下、杉):開発責任者としては、特にホンダの「オン・オフ・モデルだよ」ということに気を付けて造りました。オンでもオフでも両方で使いやすいですよ、というところに一番気を使いました。

F:はい。その部分も先程伺いました。オンでもオフでも乗りやすい、使いやすいと。

:お客様に対してもそうなんですが、実は開発陣に向けても同じ話をことあるごとに何度も何度もしてきました。これはホンダのマルチパーパスモデルなんだよ、完全なオフ車じゃないよ、「オン・オフ」なんだよ、と。

F:どういうことでしょう?

:オフロードに特化しちゃイカンのですよ。これは一般の人が乗るオン・オフなんだから。でもオフ側に振ると開発のチーム員はみんな喜ぶんですよね。だってみんなオフをガンガン走る人たちですから。放っておくと、とことんオフロード側に行ってしまうんです。そうなると、メーターなんかもっとちっこくていいよね、足つきなんかチョンチョンと爪先だけつけばいいよね、シートも三角木馬にして前後左右にポジションを自在に移動できたほうがいよね……と、どんどんソッチ系に走ってしまうんです(苦笑)。

F:なるほど。分かりやすい(笑)。

:僕もオフ車に乗るからその気持ちはよく分かります。分かるんだけど、これは会社の仕事じゃないですか。自分の趣味のバイクを造っているんじゃないんです。メンバーの逸る気持ちに歯止めをかけつつ、一般のお客様はそうじゃないんだよ、ターゲットユーザーの要望を明確にして進めようよ、というのが開発において一番注意したところですね。

F:面白い。いや、実にいいお話です。

:オフロードバイクのいいのを造るぞ、おーっ! とやるのは、むしろ簡単なんですよ。みんなの気持ちも乗せやすいし、チームの雰囲気だってつくりやすい。

F:簡単ですか?

:ある意味簡単です。だって仕事がどんどん進みますもの。ポンポン飛んでガッと加速してパンと曲げるにはこうしよう、ああしよう、と、目標がとても明確ですから。

F:極端な話、公道で走れるモトクロッサーを造っちゃえ、ということになりますものね。

魅力的なだけではダメなのです

:そうそう。メンバーを放っておいて好き放題にやらせたら、そちらの方向に走ってしまいます。モトクロッサーやエンデュランサーのような方向に走って、「お客さん悪いけど一般使いは諦めてくださいね、でもオフに行ったら超絶速いですから」みたいなバイクになると思います。

F:でもそれはそれで非常に魅力的ですよね。ちょっと乗ってみたいな(笑)。

:そりゃ間違いなく魅力的なバイクになりますよ。でもそれじゃダメなんです。このバイクはオフロードが大好きで大好きでしょうがない、そのためにはいろいろガマンしますというような人たちに向けてではなく、何も知らないけれどそっちの世界をのぞいてみたい、入っていきたい、という人たちをターゲットにしなきゃいけないバイクなんですよ。

F:杉山さんよりももう少し世代が上で、オフをガンガン攻めるような方から、「いや杉山よ、お前なにヌルいこと言っているの? もっと凄いの造れよ。もっとバリバリのオフ車にしちゃえよ」というような声は出ませんでしたか?

:いや、それはないですね。そんな意見は出ませんでした。なぜかと言うと、ホンダにはソッチ系に特化したものを造ったが故に、市場をシュリンクさせてしまったという過去があるからです。諸先輩方もそれはよく覚えておられるので。

F:バイクを始めたばかりなので、そういう過去の知識が全くないんです。ホンダにはオフに振り過ぎて、お客にそっぽを向かれた過去があるんですか?

:実はそんな時期があったんです。僕が入社したころなんかはまさにそうでした。当時はウチだけでなく、極端なトレールバイクが大流行していました。それこそ各メーカーから凄いモデルが次々に出てきて。○色のバイクなんてバランスも取れていなくてひどかったし。

F:○色のバイクって何ですか?

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