あけましておめでとうございます。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
本年も当「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」をよろしくお引き立ての程お願い申し上げます。
めでたい元旦特別号も、しょうもないヨタ話から始めましょう。
ヨタを飛ばさないと、どうも筆が走らないものですから。
MST(港区スキーチーム)の面々と、今シーズン1発目のスキーに行ってまいりました。
個別のクルマで移動、個別の部屋に宿泊。リフト乗車中もマスク着用し(そもそもマスクをしないとリフトに乗せてくれません)新型コロナ対策も万全であります。
何かと不自由ですが、ここまでやらないと感染拡大は止められない。できるかぎりのことはやらなければいけません。
いよいよシーズンの始まりです。バイクも楽しいがスキーはやっぱり楽しい。
今回も我らが皆川賢太郎コーチにご一緒いただきました。
全日本スキー連盟の理事会クーデターに関して、いろいろと伺いましたが、いやぁ酷い酷い。
ここで内情をブチ撒けたいところですが、選手のことやコーチのことを考えると、今は言うべきタイミングではない。やめておきましょう。今回の内紛劇を一言で表すなら「老害」となりましょうか。
前の週に降った大雪のおかげでゲレンデのコンディションは最高です。
自分が1段階うまくなったと錯覚してしまうほどの雪面です。
ここでおそれ多くも賢太郎コーチ直々にレッスンしていただきました。ありがたや。
今回の練習項目は「正しいカーヴィング」です。
レッスンはカーヴィングスキーの構造の理解から始まります。どのようなメカニズムでスキーが曲がるのか。カーヴィングターンとは何か。いや、勉強になりました。
「ストックなしのドリルだとほぼ完璧な滑り」とお褒めいただきました。ところがストックを持ち自由滑走となると昔からの悪癖が出てしまう。今シーズンはもうストックなしで行きましょうか……。
年内最後のホンダバイク試乗は、125ccのGROMであります。
ははは。これは楽しい。小さいのに本格派。街中をキュンキュン飛ばせます。小径タイヤなので速度が上がってくると少しバタつきますが、まあ許容範囲内。
生産国はタイで、日本へは逆輸入されています。海外ではMSX125の名称で販売されているそうです。今週は何かと忙しくてあまり距離を稼げませんでしたが、これで奥多摩とかを走ってみたかった。
さてさて、それでは本編へとまいりましょう。
新春シャンソンショー第1弾は、ジャガー・ランドローバー・ジャパン代表取締役社長、マグナス・ハンソン氏のインタビューです。
フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):はじめまして。フェルディナント・ヤマグチと申します。マグナスさんというのは、お生まれのスウェーデンでは多いお名前なのでしょうか?
マグナス・ハンソン ジャガー・ランドローバー・ジャパン代表取締役社長(以下、マ):はい、伝統的なスウェーデンの名前です。
マグナス・ハンソン ジャガー・ランドローバー・ジャパン代表取締役社長
F:今回はたくさんディフェンダーに乗せていただきました。一般道はもちろん。高速道路からちょっとした山道の未舗装路。そして砂浜まで。
マ:それはありがとうございます。いかがでしたか。ディフェンダーに乗ったご感想をお聞かせください。
F:とても素晴らしいものでした。エンジンはストレスなく上まで吹き上がり、高速では安定し、悪路も難なく走り抜けていく。静かだし揺れないし変な振動もない。SUVとしてパーフェクトな仕上がりだと思います。
マ:ありがとうございます。たくさん褒めていただいて嬉しいです。
F:素晴らしいです。本当に素晴らしい。ただ、ディフェンダーというクルマが、こんなことでいいのか? とも思ってしまいました。
マ:それは……どういうことでしょう?
F:何と言うか……快適過ぎるのです。
ディフェンダーなのだから、もっとタフで、もっと乗り心地が悪くて、真っすぐ走らせることすら難しくて、「ああ、俺はいま本チャンのオフローダーに乗っているのだ」というような、ドキドキするヤバさに欠ける。言い方がとても難しいのですが、もっとアンカンファタブルさが欲しい。そのような意見はお客さんから、特に旧型の顧客から上がってこないですか?
開発目的は「100%ユニークなポジション」
マ:新しいディフェンダーは、必ずしも前のディフェンダーのリプレースではありません。様々なテクノロジーの進化や、人々のニーズ。さらには世の中のトレンド。こういったもの全てを加味して織り込んだ商品を提供している、ということです。
F:新しいディフェンダーが開発された「目的」を言葉にすることはできますか。
マ:もちろんできます。ディフェンダーの開発目的は「100%ユニークなポジション」です。これは旧型から少しも変わることがありません。そして新型も、確固としたポジションをキープすることに成功していると自負しています。
フェルディナントさんは振動や騒音などの不快さが失われて残念だとおっしゃいました。
しかし厳しいオフロード走行をするときに、そうした不快さは本当に必要な要素でしょうか? 安全でより高度な走行の邪魔にならないでしょうか。新しいディフェンダーのオフロード走行性能は、快適である上に、他のものと比較にならないくらい素晴らしいものなのです。
F:なるほど。安全で高度な走行に不快さは不要。確かに。その通りです。
マ:先代のディフェンダーが非常にユニークだったのと同様に、新型も大変な性能を持ちながらもカンファタブルである。心地いいドライビングを提供する。ほかのクルマには決してマネのできないユニークなポジションを確保できている。私はこのように考えています。
F:旧型のディフェンダーと新型のディフェンダーが戦ったらどうなりますか? 古いディフェンダーで走れた道なき道を、新型も同じように走ることはできるのですか?
マ:それはもう新型の圧勝です。新しいテクノロジーをふんだんに取り入れていますし、もう比較にならないくらい新型のほうが優れています。
F:新型のほうが優れている。そうですか。
マ:アプローチアングル37.5度、デパーチャーアングル40度。45度の坂を上り下りできて、最大渡河水深は900ミリ。水深900ミリの水の中を走っていけるのです。さらに7トンのもの重量を牽引することができる。その上で非常にカンファタブル。全ての面で新型のほうが優れています。
F:そんなに違いますか。
マ:もちろん旧型の性能を否定するものではありません。その時代時代でスーペリアであった、というふうにご理解ください。オリジナルのディフェンダーも、その時代では先頭を走っていた。そして今もそう。それぞれの時代で同じようにユニークな存在であるということです。
F:ずばり、ライバルに据えているのは何ですか?
マ:オフロード性能という点においては、メルセデス・ベンツのGクラス、ジープのラングラー、そしてもちろんトヨタのランドクルーザーが競合になりましょう。しかしオフロード以外の性能においては、私たち自身のレンジローバーも含めた多くのSUV、オフローダーが競合になってくると思います。
F:なるほど。
マ:お客様はいろいろな角度、いろいろな側面からクルマを評価します。ある側面から見たらGクラス、またある側面から見たらラングラーと比較するでしょう。また別の側面から見れば、ほかのヨーロッパ製SUVと比較するかもしれません。
F:クルマを比較検討する際は、性能や乗り心地もさることながら、価格も重要な要素になってきます。ディフェンダーは走りも乗り心地もいい、見た目もとても立派なクルマなのに、値段が驚くほど安いですよね。ランドローバーの他のSUVと比べても安いし、メルセデスのGと比べたらスターティングプライスは半額です。どうしてこのような安価な設定にしたのですか? 戦略的価格、ということですか?
マ:1つは(ジャガー・ランドローバー・ジャパンが)ランドローバーの本社と非常にハードなネゴシエーションをしたからです。それだからこそ、フェルディナントさんの指摘した通り、コンペティティブな価格を達成することができたと思っています。
ディフェンダーは非常に高いポテンシャルを持ったクルマです。そしてディフェンダーの持つ能力、デザイン、ヒストリーを、日本のお客様は魅力と感じていて、憧憬の念を抱いていると理解しています。
このクルマをより多くの方に乗っていただくことができたら、我々ランドローバーが提供できる価値をより広く知らしめることができる。私たちはそう確信しています。
だから本国とハードに交渉したのです。いろいろなオプションを付けても500万円台から1000万円くらいの間に収まるように。日本にはそのレンジに非常に大きなマーケットがあります。お客様のために、より多くの選択肢を提供する。それが大事だと思っています。
F:お客により広い選択肢を。なるほど。それにしても安い。激安と言っていい。こんな価格で利益が出るのかいな……と他人事ながら心配になってしまいます。客からすれば万々歳のお買い得プライスですが(笑)。
マ:もちろんもっと高くすることも可能でした。ですがまずはお客様に乗っていただきたい。そちらの思いを優先させたのです。
そして大事なことがもう1つ。我々ランドローバーファミリーの中には、レンジローバーという別の柱がある。こちらはより高いプライスゾーン、より高いポジショニングのプレミアムSUVです。クルマによって差別化を図っています。レンジローバーというクルマがあることで、私たちはディフェンダーをこのプライスレンジにすることが可能だったのです。
F:この価格は世界的なものですか。日本だけが特別に安いということはないですか。
ディフェンダーが放った「クロスオーバーヒット」
マ:この価格はグローバルの価格帯と同様です。レンジローバーとの比較も同じです。
我々の目的は、レンジローバーとディフェンダーが同じお客様を奪い合うことではない、ということです。お客様によっては、レンジローバーとディフェンダーの両方を買われる方もいらっしゃいます。
F:ディフェンダーを買う顧客は何歳で仕事は何をしていて年収はどれくらいか。どのようなライフスタイルか。そのようなモデルはありますか?
マ:これは非常に難しく、またお答えしにくい質問です。と言うのも、幸いなことにいまディフェンダーは大変なヒットになっているからです。「クロスオーバーヒット」と我々は呼んでいるのですが、実に多種多様なお客様に乗っていただいています。典型的なハイエンドの輸入車のお客様で、お医者様、法律家、企業経営者といった層もあれば、エクストレイルやCX-5といった国産のSUVからアップグレードされる方もいらっしゃる。さらにプジョーのような輸入車からの乗り換えもあるんです。
F:クロスオーバーヒット。初めて聞く言葉です。
マ:こういう現象がたまに起きるんです。幸いなことに、ディフェンダーでこのクロスオーバーヒットが起きました。
F:結果としてクロスオーバーヒットになりましたが、商品を売り出す際のマーケティングには、必ずターゲティングモデルがあると思います。売り出す際のターゲットはマルチプルに設定しませんよね? 結果として様々なタイプのお客が買ってくれているけれども、初期に設定したモデルはないのですか? 40歳でエディターで恋人は娘、みたいな……これは大昔のアメックスのCMですけれども(笑)。ディフェンダーはどうでしょう?
マ:キーワードはクルマ好き、テクノロジー好き、ユニークなデザインが好き。そこがコモンポイント。ディフェンダーをはじめ、全てのランドローバー車がそうですけれども、クルマにそれほど興味がない人は決して買わない。必ず“これ”と決めて買っていただくのです。我々はフルラインナップではありませんから。
F:「よく分からないからとりあえずベンツ買っとくか」という人はいるけれども、「とりあえずディフェンダー買っとくか」という人は存在しないと。
マ:ごめんなさい。僕の立場からそういうことは言えないのですが……(苦笑)。
F:でもそういうことですよね、要するに。
ジャガー・ランドローバー・ジャパン広報 若林氏:ちょ、ちょっとフェルさん。勘弁してくださいよ。誘導尋問しないでください。
F:あれ? 若林さん。以前どこかでお目にかかりましたよね。
広報 若林氏:マツダの広報におりました。広島でフェルさんの取材のアテンドさせていただきました。あのときも今日と同じように答えにくい質問をされて……。
F:いやどうもどうも。その節は失礼。
ここで少しディフェンダーのテクノロジーについてお話を伺います。ディフェンダーはフレーム構造からモノコック構造へと大変革を遂げました。ところがGクラスもラングラーもランクルも、名だたるクロカン車は依然としてフレーム構造を採用している。先程新型ディフェンダーは旧型と比べると圧倒的に勝っていると伺いましたが、この辺りは大丈夫なのですか? 本格派はやはりフレーム、というイメージがあるのですが、なぜ新型ディフェンダーはモノコックなのか。ここを教えてください。
マ:ディフェンダーのプラットフォームは非常にユニークなプラットフォームで、ディフェンダーのために開発された独自のものです。ただ、100%ほかのものと違うかと言うとそうではなくて、レンジローバーなど、他のクルマから使える部分は持ってきています。日本車メーカー的に言うと「アーキテクチャーは一緒」ということになります。ただ、明確に申し上げたいのは「プラットフォームとしては違う」ということです。
F:フレーム構造じゃなくても大丈夫なのですか?
マ:もちろん大丈夫です。何の問題もありません。このプラットフォームは、従来のボディ・オン・フレームよりも優れたオンロードの性能を持ち合わせている上に、ねじれ剛性についてもフレーム構造の3倍もあるのです。
F:何に対して3倍ですか? 比較対象は何ですか?
「うわー! 書きてー!!」
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