ヨタ話でも散々申し上げているように、ドップリとバイクにハマっている。
 バイクは楽しい。死ぬほど楽しい。しかし、一歩間違えると本当に死んでしまう危険と背中合わせの乗り物でもある。

 高校1年の時、バイクの免許を取ろうと準備を進めていた。それを直前で断念したのは、クラブの先輩がバイクで亡くなってしまったからだ。
 2日前まで一緒に活動していた人が、突然世の中から消えてしまう。これは辛い。
 葬式は地獄だった。親は泣き狂い、美人の彼女さん(逆サバを読んで高校生なのに大学生と偽り創刊されたばかりの「JJ」で読モとして活躍していた正真正銘の美人だった。昔の読モは、今とは価値が違ったのだ)は出棺の時に卒倒し、怖い先輩方は事故の相手を殺しに行くと鬼の形相で息巻いていた。一年坊主の私は隅のほうで震えていたものだった。
 以来、バイクは自分の中で封印していた。

 バイクは楽しい。でも危ない。
 自分の身は自分で守るしかない。死にたくなければ、常に注意を怠らず、安全運転に徹し、優れた防具を身にまとうしかない。防具の中で、最も重要なのが、頭部を保護するヘルメットである。今回は高級ヘルメットの中で圧倒的なシェアを誇る、SHOEIの工場突撃リポートをお届けする。

ヘルメットに求められるもの

 「それは自衛隊用のヘルメットです」

 工場の事務棟に入り、展示されているヘルメットを手に取ると、会社説明をしてくださる村上洋一茨城工場生産管理部長は言った。その白いヘルメットは意外なほど軽く、モータースポーツ用のヘルメットとは明らかに違う作りのものだった。重量はバイク用の半分以下だ。こんな軽いもので、バイクよりさらに危険な乗り物に乗る自衛官の頭部を保護できるのだろうか。

左が航空用、右が警察用のヘルメット。
左が航空用、右が警察用のヘルメット。

フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):バイクや自動車用だけでなく、自衛隊のヘルメットも作っているのですか。

生産管理部長 村上洋一さん(以下、村):はい。こちらが警察向けのヘルメット。こちらの白いほうは自衛隊のヘリパイ(ヘリのパイロット)向けヘルメットです。陸海空すべての航空ヘルメットを、こちらの工場で生産していました(注:航空ヘルメットの製造は今年11月で終了)。

F:またえらく華奢な作りですね。こんな軽さで、ヘリが墜落した時に乗員の頭部を守る強さが出るものなのでしょうか?

:いや、航空ヘルメットは、そういう強さを求められてはいないんです。そもそも民間のヘリパイは、ヘルメットを被っていませんしね。

F:そういえばそうです。民間はヘルメットではなくキャップを被っている。

SHOEI茨城工場生産管理部長・村上洋一さん(左)。これは工場に潜入した際の写真。詳しくは後ほど。
SHOEI茨城工場生産管理部長・村上洋一さん(左)。これは工場に潜入した際の写真。詳しくは後ほど。

:それじゃなんで自衛隊のヘリだけ被るのか……という話なのですが、自衛隊のヘリって、機器とか武器とか、いろいろなものをたくさん積んでいるじゃないですか。しかも民間のヘリより激しく飛ぶ可能性が高い。

F:そりゃそうです。何しろこちらから撃つし、向こうからも撃ってくる。

:そのときに機内で頭をゴツンと打たないようにするのが目的です。だからそこまでの強さは必要ないんです。さらに戦闘機になるととんでもないG(重力加速度)がかかってくる。重いヘルメットだと、頭をGで持っていかれてしまうからダメなんです。

F:なるほど。これは面白い。

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 SHOEIは1959年設立の老舗ヘルメットメーカーである。その前身は昭栄化工というポリエステルの加工品メーカーで、ヘルメットの生産に着手したのは1960年のことである。

 今年はちょうどヘルメット生産開始から60周年に当たる。

 マルケス兄弟(マルク・マルケス選手、アレックス・マルケス選手、詳しくはこちら)はじめ、多くのライダーから絶大な信頼が寄せられ、高級ヘルメット市場での世界シェアは50%を超える。もちろん私が愛用しているのも……と言いたいところだが、あいにく現在使用しているのはライバルであるAraiの製品である。せっかく取材に応じていただいたのに申しわけありません。次はSHOEIの製品を買いますので……。

大変申しわけございません。家に帰って並べてみたら、全部Araiの製品でした……。
大変申しわけございません。家に帰って並べてみたら、全部Araiの製品でした……。

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