:それはありません。もちろんクラリティだけでやめる気はありません。今年発表した、いすゞ自動車さんの大型トラックにウチの燃料電池を積んでのスタディー等、乗用車だけでなく、商用にも使うとか、分散発電に燃料電池技術を使うとか、様々なアイデアが出ています。

 今はちょっと詳細をお話しできないのが残念ですが、単に「クルマ」という枠ははるかに超えた、2030年以降の「次の時代のホンダをつくる」ということを着実にやっています。

F:今の段階では、ホンダはやはりクルマとバイクのメーカーという印象が強いですが、10年後のホンダは、今とはまったく違う見方を世の中からされている、という可能性はありますか?

:10年もたてばホンダに対する世の中の見方も変わるでしょうが、それよりも世の中そのものが大きく変わると思います。今の世の中が、そのまま10年、20年後も続くとは思っていないので。10年後もホンダは「モビリティー」という枠の中にいたいとは思っていますけれども。

F:なるほど。

:これからクルマはどんどん簡単に造れるようになる。いままでクルマには縁もゆかりもなかったような企業でも、簡単にピピッと造れるようになる。さらに電動化が進むと、モジュール化により、昔のように走る、曲がる、止まるで差別化しろと言われたって、そんなことはできなくなる。電池も同じ、モーターの効率もみんな一緒。インバーターなんかも買おうと思えば簡単に買うことができる。そうすると、そこでのちょっとの差なんて、もう誰も分からない。

F:でも「味付け」の部分があるじゃないですか。セッティングによって、クルマは大きく変わりますよね。

「味付け」は決め手にはならないと見る

:そんなもん。味付けなんて誰だってできちゃうから。

F:そ、そんな身も蓋もない……。

:もちろん好き嫌いはありますよ。でもEVだったら最初にドカンとホイールスピンするようなチューニングだって、簡単です。

 「味付け」ということを特別視して、何かいろいろ言う人もいますが、僕は「そんなの誰だって簡単にできちゃうよ」と思っていますけどね。

F:それじゃ雨後のタケノコのごとくニョキニョキ生えてくる中国のEVメーカーも……。

:できちゃう。簡単にできちゃう。フェルさんもそこは冷静に見たほうがいいですよ。

 まあ制御によって多少電池が長持ちするとか、劣化しにくいとか、そういうのはありますよ。制御技術には多少のノウハウがあって、そこはウチも自信がありますが、でもそれだけじゃ勝負はできない。EVの価値をそこに求めるのは間違っている。

F:それじゃホンダの勝ち目はどこにあるのですか? これからのクルマが本当にモジュールを買ってきて組み立てるだけのアセンブリービジネスになるのであれば、コストの安い中国のタケノコメーカーに勝つのは非常に難しくなりませんか。

:載っかっている上屋。上屋部分の空間価値じゃないかと思いますね。

F:パッケージングということですか?

:パッケージングではなく。「パッケージング」というと、すぐにヘッドクリアランスだ、足元の広さだという話になりますが、そうではなく。例えばIVI(In-Vehicle Infotainment:次世代車載情報通信)システムのようなものも含めた、EVに乗っているときの空間価値をいかに提供できるか。移動している間の空間の価値を上げることが勝負になると思います。

F:大画面で映画を見ることができるとか、あるいは快適に眠れるようになるとか。

:まあ、例えばそういうことです。

F:いろいろな会社からいろいろな提案が出ていますが、何か陳腐なプレゼンが多い気がしますね。今のところ。

:今のところは確かに陳腐だけれど、そこに本当にどういう価値を見いだしていくのか。そこが重要になると思いますね。

F:EVそのものは10年後にどうなっているでしょう。ハイブリッドではなく、バッテリーだけで動く純粋なEVはどうでしょう。

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