四輪だけを見ても、「軽自動車からF1まで」と実に守備範囲の広いホンダのマシン群。

 F1と軽自動車という両極端の開発に携わり、今は再びF1のパワーユニット開発の最前線で指揮を執られる闘将・浅木泰昭氏。F1の現場で幾度となくお話を伺い、昨年は講演会で対談もさせていただいた。

 10年ほど前、初代N-BOXの発売時に開発主査としてインタビューしているのだが、今回三部社長から伺った、ミライース登場による「顔面蒼白話」は、当時浅木さんの口からついぞ伺うことができなかった。やはり自分では言いにくいことなのだろうか。

 今回は、そんな裏話のさらにウラ話から始めよう(裏のウラはオモテじゃないか、というツッコミはやめてくださいww)。

本田技術研究所社長、ホンダ専務の三部敏宏さん
本田技術研究所社長、ホンダ専務の三部敏宏さん

三部敏宏さん(以下、三):ともかく肝の据わった浅木が真っ青になるくらい、N-BOXの発売直前に売り出されたダイハツのクルマ(ミライース)には燃費で大きく差を付けられていた。ウチとしても、商品として絶対的な自信はありましたが、いかんせん肝心の燃費が負けている。やっぱりそれではマズイので、取りあえず発売しておいて、1年後くらいには何とかして(燃費の部分を)ひっくり返そうか……なんて話をしていたんです。でもそのままでも売れちゃったものだから(笑)。

フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):もう燃費はこのままでいいやと(笑)。

:そう。もうこのままでいいじゃんと(笑)。そのとき初めて分かったわけですよ。お客様が求めているのは燃費だけじゃないんだと。商品がよければちゃんと売れるんだと。

F:しかもN-BOXは他社製品と比較すると、ずいぶん高かったですよね。

:ええ、高かったです。何しろ軽自動車で200万円ですからね。他社と比べて、もう何十万円も高い。それでも売れた。日本で一番売れた。そこからですよ、肩の力が抜けて開発できるようになったのは。もちろん技術で負けるのはダメですよ。それは絶対にダメ。だけど意味のない数字、お客様から評価されない、小競り合いみたいな燃費競争を勝ち取っても、何の意味もないわけで。例えば燃費をよくするために、タイヤの空気圧を高めに設定したりしてね。タイヤをパンパンにすれば、それだけ燃費はよくなるから。

F:それはまぁどこの自動車メーカーでもやっていることで……。

:ええ。でもウチは途中でやめました。だってそんなゴツゴツした乗り心地のクルマなんて、お客様を乗せられないもの。だから「もうこんな無意味な競争はやめようぜ」と。

F:空気圧はそんなに燃費に効くものですか。

:効きますね。覿面に効く。だけどゴツゴツして乗り心地が悪くなるし、雨の日の制動距離も長くなっちゃう。今はようやく「お客様が本当に求めているのは何だろう」という雰囲気になりましたが、燃費に限らず、昔はともかく「市場にないものを」、と好き勝手に造っていた時期がありましたね。

F:よく言えば昔のホンダは“プロダクトアウトの会社”ということになりましょうか。

:うんとよく言えばそうなるのだろうけれども、悪く言えば、やっぱり“好き勝手”ですよ。そこがホンダのいいところでもあり、また悪いところでもあるわけで。

ホンダが軽とワゴンの会社でいいのか?

F:N-BOXの登場が、ホンダの大きな転換点となったことがよく理解できました。その影響かどうか。今のホンダはN-BOXが売れてフリードが売れてステップワゴンが売れています。とても失礼な言い方をしますが、世間には「ホンダは軽とワゴンの会社」というイメージが強いと思います。

:あくまで国内では、ね。

F:海外では違うのでしょうか。でもホンダは日本の会社で日本がホームマーケットです。実際に言葉にする人も少なくありません。そう言われることに関してはどう思われますか?

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