F:「顔が嫌い」ってモロに言われるのはショックですよね。女の子に「あなたの顔が嫌いなの」って正面切って言われたら、これは相当ヘコみますよ。

:そういう方には恐らくFITを選んでいただけていないのだとは思いますが……。ま、顔だけでクルマを選ばれても開発者としては困るのですが(苦笑)。あとはそれほど多くありませんが、やはり燃費ですね。「燃費がクラス1番じゃないとね」、とはよく言われます。

F:しかしですね、一生懸命燃費を追求している人には本当に申しわけないけれど、リッター30キロ後半まで行った世界で、コンマいくつよくなりましたとか言われても、正直ピンとこないですよね。もはやありがたみがないというか、誤差範囲としか思えない。悪いけどどうでもいい。

:僕らも正直、多くのお客様は「ここまで来たらもうどうでもいい」と思っておられるだろうなと考えて、だからこそ燃費競争から降りたわけで。

マイトのY:デジカメの画素数競争と一緒ですよね。

F:そうそうそうそう。スマホのちっこいレンズでこれ以上画素数上げてもほとんど意味ないって(笑)。

:実際ハイブリッド同士で比較すると、トヨタさんのヤリスよりも、ウチのハイブリッドの方が売れているんです。燃費はウチの方が少し悪いにもかかわらず、ですよ。

F:へー! ヤリスよりもFITの方がハイブリッドは売れているんですか。

:はい。ヤリスはガソリンの方が売れています。だから僕ら、そのデータを見て、少しくらい燃費が悪くても、他に魅力があれば台数はキチンと出るんだ、お客様のニーズはもっと違うところにあるんだと確信したんです。

最初は各部署から非難轟々

F:思い切りありきたりなことを伺いますが、開発に際して一番苦労なさった点はどこですか?

:それはもうイヤというほど苦労しましたので、たくさんあるのですが。

F:「燃費」という呪縛から解き放たれたのだから、いろいろなことが楽になりませんでしたか?

:いやいや、それは逆です。数字を追いかけるのって、実はラクチンなんですよ。だって目標が明確なのだから。でも僕ら、開発に際して「心地よさ」なんていうものを標榜してしまったものだから、そりゃ苦労です。最初は各部署から非難轟々でした。「何ですか心地よさって」「俺たちは何をすればいいんですか」と散々です。

 僕も技術者だから分かるのですが、やっぱり技術者というのは目標になる数字をしっかり決めて、その数字を達成していくようにできているのですよ。そういう性質なのです。

F:「心地よさ」も最終的には数字に落とし込んでいかなければいけませんよね。誰がどのように数値化していったのですか?

:それは我々プロジェクトチームです。4つの心地よさを実現するための技術を定めると、そこから「技術目標」というのが数字で浮かび上がってくるんです。例を挙げると「心地いい視界」。心地よさを実現するためには、フロントピラーの幅を何ミリ以下にすればいいか。これは具体的な数字を出すことができるんです。今回はフロントピラーを55ミリにしたのですが、これは当てずっぽうではなく、人間の瞳孔間隔に由来した数字です。

 日本人の小柄な女性の瞳孔間隔が57ミリというデータがあるのですが、57ミリより細くすれば死角がなくせるな。よし、それじゃ55ミリに目標を決めよう、と。このように一個一個目標を数字に落とし込んでいきます。

F:なるほど。そうやってひとつひとつ。

:そう。ひとつひとつ。心地よさを技術的に実現するために数値目標を置いていく。そうすると技術者たちはそこに向かってまい進してくれるんです。

F:なるほどなるほど。そろそろ締めに入りたいのですが、「乗り心地」を実現するために、今回はずいぶん足回りを柔らかく設定しましたよね。ホンダのクルマとしては異例のソフトさです。正直、よくこれがホンダの審査を通ったな、と思いました。

:やっぱり今までのホンダ車の方向性とは違うから、社内でも否定的な意見はたくさん出ました。だけど俺はこれをやりたいんだと言い続けました。心地よさが大事だと。

F:やはり柔らかいですよね。端的に言うと。

:はい。端的に柔らかいです。柔らかいしロールもします。だからハンドルを切ったときの反応も、いわゆる「ゴーカートフィーリング」にはなりません。だから当然これはホンダの乗り味じゃないじゃないと、そういう意見もたくさん出るんです。

 でも僕がやりたいのは、ふにゃふにゃのクルマを造ることではありません。「心地いい」というキーワードは、決してふわふわのふにゃふにゃを表す言葉ではありません。運転があまり上手じゃないお客様でも、ハンドルを切ったらハンドルを切った分だけ自然に曲がる素直なクルマ。そして日常使いから、ガチガチ突き上げる不快感を排除したい。それを繰り返し繰り返し伝えました。するとそのうち、「あ、別にこいつは今までのホンダを否定しているわけじゃないんだ」「ホンダが今まで培ってきた技術を、ちょっとだけ違う味付けにしようとしているだけなんだ」と分かってくれたのだと思うんです。

F:素晴らしい。いいお話です。

:今までの路線から真逆に行くとかじゃなくて、味付けの領域です。

F:何かメルクマールにしたクルマはありますか?

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