全6796文字

:えーとあの……FITの話を続けていいですか……(苦笑)。

 このテストを一度福岡でやったら、すごく面白い結果が出たので、国内の複数の都市で実施して、しばらくして海外でも展開しました。画像を使うこの方法は、言葉の縛りがないので、海外との結果比較がやりやすいんです。言葉を使った調査って、翻訳でちょっとしたニュアンスのズレが生じたりしがちなんですが、この方法ならそれがない。

 フェルさんは「クルマの味付け、乗り心地が大きく変わった」と言ってくださいましたが、それはその調査結果から吸い上げたニーズをクルマに反映したからなんです。別に「変わること」を狙ったわけではないのですが、お客様のニーズに、潜在ニーズに応えた結果、ああいう形になった、ということなんです。

F:なるほど。FITの開発の背景に関して、とてもよく理解できました。味付けが変わった理由もよく分かりました。で、ここで新たな疑問が生じました。新しいFITは「数字ではなく感性」「言葉ではなくフィーリング」。でもその「フィーリング」なるものを製品にするときには、やっぱり言葉が必要になりますよね。田中さんだってLPLとしてチームに説明する際に、「何となくこんな感じ」じゃ困るじゃないですか。新しいFITを言葉にすると、どんなワードになるのですか?

:そのキーワードが「心地よさ」です。これはもう外に向かって散々言っている言葉です。CMでも「心地いい」「心地いい」と繰り返しています。新しいFITのバリューは「心地よさ」と定義付けています。

F:さっきの調査で出てきた言葉が「心地よさ」だったということですか?

:いえ。調査で出てきた潜在ニーズを表す言葉は、「安心」「快適」「リラックス」、そして「癒やし」です。これが世界共通で圧倒的に多かった。それらのキーワードにホンダとして応えるバリューで共通する言葉をいろいろ考えると、一番ピッタリくるのが「心地よさ」だなと。「心地よさ」って、単純に快楽とか快適ではなく、雰囲気も含めたニュアンスもありますよね。

F:なるほど“心地よさ”ね。「心地よさ」というと、何かまったりとリラックスするようなニュアンスを感じますね。アドレナリンを出してバンバン飛ばすというよりも、高原の道で木漏れ日を浴びながらノンビリ流す、というようなイメージ。

:アドレナリンを出しながらバンバン飛ばすのって、「快楽」ですよね。瞬間的な快楽。一方で「心地よさ」は時間軸を含めてもう少し長く緩い感じですよね。

F:なるほど。確かに。

フェル、FITの視界に物言いを付ける

:新しいFITはバリューとして「心地よさ」、と決めた。そこさえ決めてしまえば、あとは手段です。大本の心地よさを実現するために、4つに絞った心地よさをつくり込んでいく。

 それが「心地よい視界」「座り心地」、そして「乗り心地」「使い心地」。大本の心地よさにこの4つをぶら下げて、そこに技術を全部ぶら下げていく。それが今回のFITの開発経緯、開発方法です。例えば視界。FITに乗っていただくと、フロントピラーがものすごく特殊な構造をしているのが分かりますよね。これは「心地よい視界」を実現するために、うんと高度な新しい技術を入れているんです。

(写真・図:ホンダ)

F:話の腰を折ってごめんなさい。あのAピラーの部分なんですが、僕はちょっと物言いがありまして。大きなウリの1つである部分にケチを付けるようで本当に申しわけないのですが。

:物言いですか。どのような。

F:三角窓の底辺の部分が前上がりになっていますよね。狭い角を曲がるときなどに、あの角度が視界を遮ってしまい、実は見切りがよくないと感じるシーンがある。あそこを下げることはできないのですか? あるいはせめて底辺を真っすぐにすることはできないのですか。ほんの少しガラスを広くするだけで、うんと見切りがよくなると思うのですが。

:フェルさんのおっしゃることはよく分かります。あの横の高さは、実は我々もいろいろトライしているんです。あそこを下げて水平視野角を広く取って、ベルトラインを下げることは技術的には可能です。でもですね。あえてあそこは広げなかった。

F:できるのにあえてやらなかった。なぜですか。

:それはですね……。

 と、いいところで以下次号。すみませんねぇ。そろそろ会社に行く時間です。サラリーマンは辛いです。それではみなさままた来週。ごきげんよう。さようなら。