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西:日本ではいいクルマでも走行距離が10万キロを超えてしまったら敬遠されますからね。値段もガクッと下がる。でも向こうなら20万、30万キロ乗るのなんて当たり前で、10万キロ程度なら、むしろ「日本でいい具合に慣らし運転が終わっていますよ」みたいな感覚なので(笑)。しかも日本は道路のコンディションがとてもいいから、車両がダメージをほとんど受けていない。さらに高いクルマはたいてい屋内保管されていて、オリジナルペイントが残っている。内装も日焼けしてない。コンディション最高です。こうなるともう本当に絵画じゃないですが、がんがん優良物件がオークションを通して海外に流れていっちゃう。

海外ではゴジラというニックネームで呼ばれることもあるスカイラインGT-R。R32は国内専用モデルだったこともあり、海外からの人気がズバ抜けて高いモデルです。

F:これは由々しき問題ですね。少し前は空冷ポルシェがガサっとやられたし、R32、33、34のGT-Rや80スープラなんて、文化遺産の流出じゃないですか。どげんかせんといかん。ボストン美術館へ行くとムカつきますよ。敗戦のときに接収でガサっと持っていかれた名刀がたくさん展示してありますから。このままだとクルマも同じことになってしまう。

マン:いま例に出たクルマとか超高額車って、カーセンサーを見ると「価格応談」になっている場合が多いですよね。あれにはいろいろな理由があるのですが、あるお店で聞いたのは、海外ブローカー対策というのもあるそうです。お目当てのクルマがオークションに出てこないから、お店に並んでいるクルマを買って、向こうへ持っていこうとするブローカーが結構いる。彼らは、高値でも買ってくれる。一方で心ある業者さんは日本にいいクルマを残しておきたいという思いがある。

F:「価格応談」は外国人ブローカー対策。

マン:「ASK」となっている中古車って問い合わせしづらいですよね。つまり冷やかし防止になる。そして問い合わせがしづらいのは業販を狙う中古車販売店や外国人バイヤーも同じ。一概には言えませんが、そういう側面もあるということです。

F:そんな気概のあるお店があるんですか。1円でも高く売れたら、その方がもうかるからいいや、という考えだけじゃないんだ。

西:いやいや、そういう「厳しいお店」は本当にありますよ。お客さんと話すのが商売のための「商談」ではなくて、この人に売っていいものかどうかを見極める「面接」をしているようなお店って、実は結構多いんです。お前なんかには売りたくないと。もちろんモロにそう言うわけではないでしょうが(笑)。こだわってやっている専門店とか、昔のスポーツカーを扱っているようなところは、ほぼ面接と思っていいですね。

F:札ビラ切って、「気に入ったわ。コレちょうだい」とか言うのは……。

西:あーもうぜんぜんダメです(笑)。

マン:「帰れバカ。二度と来るな!」って話ですよホント。

少し古いですが、スマホの中に「価格応談」のプライスボードの写真がありました。こういうヴィンテージモデルも「ASK」になっているものが多くあります。

F:いい話じゃない。そうやって文化遺産の国外流出を防ごうとしている業者もあるんですね。

西:でもこれにはいろいろな考え方があって、「日本人だからといって必ず大事にしてくれるとは限らないじゃん。買った後は金をケチってロクにメンテもしないじゃん。むしろ海外の大事にしてくれるファンに流した方が、キチンとメンテもするし毎日ちゃんと乗ってくれるし、クルマとしてはその方が幸福じゃん」っていう業者さんもいますよね。

F:なるほど。確かに確かに。日本刀にしたって、わけも分からず相続した親族が、納屋に放り込んでサビサビになってしまうくらいなら、海外の美術館でキチンと手入れされて湿度も温度も管理された環境下で展示されていた方がずっと幸福なのかもしれません。