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 昨年のモーターショーを見学に行った際、ひときわ異彩を放っていた一角があった。

 東京ビッグサイト南展示棟4階。そこには日本スーパーカー協会のブースがあり、ピカピカに磨き上げられた名だたるスーパーカーが並んでいた。スーパーカーはおろか、4社を除いて輸入車勢にほぼスルーされてしまった東京モーターショーだったが、実は端っこの方には実に興味深いエリアがあったのだ。

 さすがはスーパーカー。輝きが違うと感心しながら見入っていたのだが、それにしても輝き方が桁違いだ。なんと言うか、本当にピカピカ光って曇りの部分が一切ないのである。そうか、このテのクルマは高額なコーティング処理を施しているからこんなに光るのかと得心していたのだが、実はそうではなかった。ここに並んでいるクルマには、例外なくプロテクションフィルムが貼られていたのだった。

 ペイント・プロテクション・フィルム。略してPPF。

 ボディに透明のフィルムを貼り付けて表面を強固に保護しつつ、ピカピカの状態を保つことができる夢の製品である。スマホの画面に貼り付ける表面保護シートの自動車版と言ったら分かりやすいだろうか。スーパーカーの世界では、これを施工するのがもはや「常識」の範囲であり、車両価格が高額になるほど、その施工比率も上がるのだという。

昨年の東京モーターショー。XPEL JAPANのブースにて。

 日本スーパーカー協会の隣には、業界最大手のXPEL JAPANのブースがあった。早速ブースに飛び込みお話を伺った。ピカピカに仕上がることは実車を見れば分かる。素晴らしい。すぐにやらねばならない。しかしモノがいい分それなりにお値段も張る。下地磨きから貼り付け施工をフルに行うと、100万円近くもする。100万円。決して安い値段ではない。ていうか高い。ボディケアにそれだけの金額を出すのなら、他にやることがあるだろう、と思う。そのままズルズルと半年が過ぎてしまった。

 そんなある日、スーパーカー関係の方々と連続してお話をする機会があった。
 ランボとかアストンとかフェラーリとかの高額車に、ごく「当たり前」に乗っている方々だ。
 彼らはまた、ごく「当たり前」にPPFを施工しているのであった。逆に、え?フェルさん貼っていないんですか、と呆れられる始末だった。

 クルマの塗装は置いておくだけでも紫外線でジワジワと劣化する。飛ばして走れば飛び石でフロント部分に細かいキズが付く。鳥のフンは言うに及ばず、実は黄砂や花粉も塗装を傷める要素である。

 そうか。やっぱり貼るのが常識なのか。以前いただいた名刺を引っ張り出して、XPEL JAPAN代表取締役の飛鳥田秀樹さんに連絡を取った。「やあフェルさんですか、モーターショー以来ですね。分かりました。すぐにやりましょう」と言ってくださった。ありがたや。

 アポを取りクルマを預けて世間話をして意気揚々と引き上げた。仕上がりが楽しみである。

「このままでは施工できません」「えっ……」

 するとその日の夜、飛鳥田さんから電話が入った。「フェルさん。残念ですが、このままでは施工ができません」と言う。どういうことなのか。

 「フロント部分を軽く擦っていますよね。その部分の塗装が剥げて段差ができているんです。そこにフィルムを貼ると、段差がそのまま転写されてしまうんです」と。

 そうだ、今年の初めにスーパーの駐車場で当て逃げされたのだ。あまり気にならない小さなキズだから放っておいたのだ。ここで板金塗装に出すと、フロント部分を大きく塗り直すことになるから結構なコストである。うーん、何かとカネがかかるなぁ。やっぱり貼るのをやめようか……。

 電話口で絶句していると、飛鳥田さんが「そういえば知り合いの板金屋さんで、新しい補修方法を編み出した人がいます。相談してみましょう。安く上がるかもしれません」と、これまたありがたいご提案をいただいた。

 ご紹介いただいたのはMOON AUTOの代表取締役、清野正幸さんだ。

 ご高名を聞いたことがある読者も多いだろう。
 所ジョージさんをはじめ、名うてのカーマニアのクルマを変態的に仕上げるプロ中のプロである。塗装が剥げて凹んでしまった部分に紫外線硬化型の樹脂を少し盛り上がるようにして塗り、硬化させた後にカッターで削り平面に仕上げるというものだ。

樹脂を携帯式の紫外線照射装置で硬化させる。

 「すぐにできるから目の前でやってもらいましょう」。「使用前使用後」を確認するため、右半分だけPPFが施工されたフェル号を見に行った際、清野さんの作業を実際に見せていただいた。すべての作業は30分程度でサクッと終わってしまった。補修の世界も技術革新が進んでいるのである。

カッターで削るうちに本当に平たんになってしまった。これはすごい。

 見学ついでにPPFの現状を伺ってきた。以下、当日のインタビューである。

フェルディナント・ヤマグチ(以下、F):今回は本当にお世話になりました。しかし先日、「このままじゃ施工できません」とお電話をいただいたときはショックでした。これくらいの小キズなら、フィルムを貼ってしまえば隠れるのかと思っていたので……。

XPEL JAPAN代表取締役 飛鳥田秀樹氏(以下、飛):PPFは透明のフィルムで、キズがあったらそのまま透けて見えてしまうんです。洗車キズのような細かいものだったら、ある程度はカバーできる可能性もあるのですが、あれだけ段差が付いたキズだとちょっと厳しいです。

F:スーパーの駐車場で当て逃げされたんです。あんな高い場所だから、恐らくバックしてきたSUVにやられたのだと思います。しかし清野さんの補修技術はすごいですね、一瞬……とはいかないけれど、ほんの30分程度で、ものの見事に段差が消えてしまいました。清野さんのMOON AUTOでは、所ジョージさんのクルマのペイントも、すべて扱っていると伺いました。あ、記事で所さんの名前を出しちゃマズイですか?

MOON AUTO代表取締役 清野正幸氏:聞いておきます。本人、あまり気にされない方なので(笑)。(所さんご本人に確認していただき、名前出しOKとなりました)

F:しかし驚きました。こんなにピカピカにきれいになるとは夢にも思いませんでした。本当に感激しました。すごいですよこれホント。マジですごい!