S:前からマクラーレンに興味があったの、いい機会だから見せてくださらない? 今から家においでなさいよ。そこから10分くらいだから。
F:いや、あの、記事が、試乗が……。
S:おいしい紅茶を淹れてあげる。ヤマグチくん、アッサムが好きだったでしょう。ミルクを先に入れるのがお好みで。
高い塀の門が静かに開く
有無を言わせぬこの押しの強さ。正しく問答無用である。彼女の周囲にいる人の返事は、「はい」か「かしこまりました」か「ありがとうございます」しかないのだろう。
一方で30年前に伝えた私の紅茶の好みを正確に覚えているという繊細な部分もある。
ハイソサエティとは恐らくそういうものなのだろう。
目指すは松濤でも山王でも番町でもない都心の超一等地。辺りには大使館が点在し、木々が生い茂っている。一軒一軒の敷地がやたらと広い。要人の私邸が多いのだろう、門前に警備派出所、いわゆるポリスボックスが設置された家が何軒も見受けられた。
その中でも辺りを睥睨するような……と書きたいところだが、彼女の家の豪奢さは外から窺い知ることができない。その豪邸は、地味だが高い塀に囲まれている。
「富裕層」なる言葉が貧乏臭く聞こえる古くからのエスタブリッシュ。この家系から見れば、どんな家でも単なる成金だ。
どこから監視されているのか、マクラーレンが屋敷に近づくと、大きな木製の門がスルスルと開いた。地下の駐車場へ続くアプローチに明かりがともる。駐車場には満面の笑みをたたえた彼女が腕を組んで待っていた。「すごいクルマね。ヤマグチくんによく似合っている」。
しかしそのパーキングには、さらに“すごいクルマ”がゴロゴロと並んでいる。
父上の通勤用のロールスロイス。そのクルマで経済団体の会合に行くのも憚られるので、偽装用に用意されたレクサスLS。具体的な車名は書けないが、他にも世界の名車が何台も止めてある。
エンジンを切り、ドアを跳ね上げる。彼女が助手席に乗り込んできた。
「お久しぶり。去年のパーティー以来ね」
彼女に会うのは去年のパーティー以来半年ぶりだ。会場ではすぐに彼女と分かった。マクラーレン並みに特異なオーラを放ち、ひときわ目立っていたからだ。100メートル離れていても彼女と分かる存在感が備わっている。

シートに座るなり、「いい革ね。とても鞣しがいい」と一言。
昨今の革シートは、上から厚くコーティングしてしまうので、中身の革の質はそれほど重要視されないのだそうだ。だがこのシートの革は「素材からちゃんと選んでいる」のだという。どうしてそんなことが分かるのか聞くと、「それは見て触れば分かるわ」とのことだった。なるほどそういうものですか。
「スイッチもそう。みんな本物の金属を使っているでしょう。プラスチックに銀色メッキを被せたイミテーションじゃないもの。質感が違う。さすがマクラーレンだわ」。いや恐れ入りました。気にも留めておりませんでした。

クルマから降りて、外周を一通りチェックする。大きく静かに電動で開閉するガラス製のリアハッチに驚いていた。
最後に、「とってもいいクルマ。でもちょっと私には大き過ぎるかな」とぽつり。
地下のパーキングから部屋に上がり、約束通り極上のミルクティーをご馳走になった。
袋を見るとロンネフェルトのナチュラルアッサムだ。高いですよこれは。
普段からこんなものを飲んでいるのか。私はカルディで100パック1000円程度の安売り品だ。
それでは最後にマクラーレンGTの◯と×を。
マクラーレンGTのここが( ・∀・)イイ!!
1:柔らかく滑らかな乗り心地:超高剛性のカーボンファイバー製シャーシ、「モノセルII-T」が生み出す、GTの名に恥じぬ極上の乗り心地。騒音の遮断も高レベル。油圧パワステもいい。
2:優れた後方視界:ミッドシップであるにもかかわらず、排気管配置の工夫により後ろがちゃんと見える。荷物もそれなりに積める。

3:軽量化ボディ:軽いのに安っぽくない。軽いのにドッシリしている。軽いのに豪華装備。お見事です。
4:ヤバそうなオーラ:どこへ行っても目立ちます。指を指されます。写真を撮られます。これは何というクルマですかと知らない人に話しかけられます。目立つのが好きな方に。
ただしこれで不倫旅行に行くと一発でバレます。
マクラーレンGTのここはちょっとどうもなぁ(´・ω・`)
1:デカい:全長4683mm 全幅2095mm 全高1213mm:横幅2メートル超はやっぱりデカい。
2:変な日本語表示。遠回りを教えるナビ。なまりのひどい自動音声:まあこの辺は少ロット輸入車のあるあるです。

3:コロコロ表示が変わる燃費計:走行可能距離が10キロ単位でコロコロ変わるので信用できない。ガス欠にはトラウマがあるもので……。
ということで来週までみなさまごきげんよう!
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