仲:いやいやそうは簡単にいきません。確かにサスペンション上下の荷重1つに対してはそうですが、入力は上下だけでなく左右もある。それにクルマとして全体的な衝突安全みたいな話もある。クルマはサスペンションだけじゃないので、いろいろな条件を考え合わせて、取捨選択をしていかなくちゃいけないんです。
F:なるほど。取捨選択か。
仲:いずれにしても質量へのこだわりは非常に大きい。1ミリに対する、そして1グラムに対するこだわりは、他のどの自動車会社よりも大きいと思います。ここに図面があります。ロッキーの設計図です。この中にそのノウハウがミッチリと詰まっているんですね。
F:おーこりゃすごい。大きいですね。どれどれ、ちょっと見せてください。
仲:いやこれは社外の人には見せられません。
F:そこを何とかお願いします。ちょっとだけチラッと。
仲:門外不出です。秘中の秘です。社外の人に見せることは絶対にありません。
F:どうせ見てもよく分からないから安心してください。こういう図面を見ながら話している画が欲しいんですよ。お願いします。ほらマンちゃん、写真、写真。写真撮って。
高橋マンちゃん:これはちょっとまずいですよね……。
仲:いや写真はダメです。
F:記事ではモザイクをかけますから。入稿したら写真は全て消去することをお約束しますから。ヨコハマタイヤさんも、それで工場内の写真を撮らせていただきました。どうかひとつ。
仲:それじゃちょっとだけ……。
マイトのY:本当に申しわけありません。相変わらずムチャ言うなぁ……。

F:おー! 他社のクルマの線が重ねていっぱい書いてある。
仲:もちろんです。C-HR、ヴェゼル、CX-3にジューク。競合車の寸法を取って、こうして重ねて比較をするんです。競合と比較されても、ダイハツは絶対に負けないということです。
寸法へのこだわり方は各社各様
あれだけ図面の開示を嫌がっていた仲保さん。いったんハラを決めると一転して冗舌になられた。
仲:アクセルを踏むときのヒールポイントとタイヤのセンター。この距離を少しでも短くしたい。でもそこには前のタイヤがあり、タイヤは切らなきゃいけない。エンジンを置くスペース、サスペンションを置くスペース、タイヤが切れる、切れない(ハンドルを操作したときに前輪が動くスペースを確保せねばならない)。平面視で見るとそれが分かるでしょう。
F:すごく分かりやすいです。すごいな。これはすごい。
仲:この寸法に対するこだわりというのは、これはもう各社がそれぞれに持っています。単純な話、ここさえ詰めていければ、コンパクトなクルマを造ることができる。一方で物理的にハンドルを切るとタイヤが当たっちゃいますよとか、この部分はフロント・サイド・メンバーと言って衝突時のエネルギーを吸収する部材ですが、これが短すぎると衝突安全性を脅かしますよとか、詰めたら詰めたで問題が出てくるわけです。前からこうぶつかったときに、骨格としてのこの部分が短いとエネルギー吸収量が減ってしまいますので。
F:そうか。衝突安全性も確保しなくてはいけない。
仲:そう。だからこそ軽いクルマを造るんです。衝突エネルギーは速度と質量で決まります。1グラムにこだわる理由はそこにもあります。軽ければ軽いほど衝突エネルギーは小さくなる。するとこの部分のエネルギー吸収量も小さくて済む。軽さによる相乗効果がどんどん出てくるわけです。
F:なるほどねえ。
仲:人間の大きさは決まっている。座る姿勢もほぼ決まっている。クルマとして全長をどれぐらいに設定して、その中で客室空間を確保しようとすると、エンジニアとして頑張れるのは、実はこの前側の部分なんです。この部分が設計の腕の見せどころなんですよね。ここなんです。

F:そこまでして詰めておられるのに、この一番前の部分。ここはずいぶん余裕がありますね。小さいクルマなのにこのラジエーターの部分なんかスカスカじゃないですか。
仲:そこは衝突したときにグシャッと潰れるクラッシャブルゾーンですからね。そこに十分なスペースを取るか、取れないなら材料強度を上げて頑丈にするか、どちらかですね。ただ、そうすると重くなるし高くなる。1ミリ、1グラム、トータルのクルマとして軽くなれば、1リットルでも十分走るようになるわけですから、そういうトレードオフを一個一個やりながら、DNGA( Daihatsu New Global Architecture)を開発してきました、ということです。
さあさあ、DNGAの話も出て、いよいよ盛り上がってまいりました。仲保さんのインタビューは次週に続きます。
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