
いかがですか、と聞かれる。スゴイデスネと高田純次氏のように答える。
いやはやさすがベンツですね。感動しました。僕はすごいクルマに乗っていたんだなぁと改めて思いました、タハハ……とできる限りの笑顔で言う。
いったんクルマを降りて、撮影のためのマスクをかぶる。高橋マンちゃんが困惑した表情で駆け寄ってくる。「ちょ、ちょっとフェルさん。もうちょっと楽しそうにしてくださいよ。いつもみたいにヒャーとかスゲーとか騒いでくださいよ。これじゃあ絵になりませんわ」と耳打ちする。
「でもさあ、横に座っているだけじゃ、面白くも何ともないよ。ヒャーともスゲーとも言えないよ」
「ワガママ言わんでくださいよ……」
「これじゃ試乗記なんか書けないね。“坂を上って下りました。すごいなと思いました”。こんな話になっちゃうよ」
「そこを何とかするのがあんたの仕事でしょうに……」マイトのYも困惑しきりである。
「ああいう人は好きなようにやってもらったほうがいい」
我々がコソコソ話していると、全国の営業を統括する中山大輔さん(MBJ販売店部長)がツカツカと寄ってきた。そして「やっちゃいますか」と一言。「マジすか?」「マジです。せっかく遠くまで来ていただいたのだから、フェルさんにも運転していただきましょう。バンバンやっちゃってください」。
いやそれちょっとマズくないですか、万一のことが起きたら大変です。なに、大丈夫だ。ああいう人は好きなようにしてもらった方がいいんだ。今度は向こうがコソコソ話している。
ともかくこうしてフェルの“実践ドライブ”が実現したのである。
ところで、「ああいう人」ってどういう人ですか……?

相手の気が変わらないうちにトットと座席につきベルトを締める。同乗してくださる西さんの指示に従い、3つ並んだデフロックのスイッチを一番ハードな設定のセンターに入れる。「まずはこの先でクルマの向きを変えてみてください」。お安い御用。Uターンを試みようとすると、ややや、クルマが素直に曲がらない。
「普通に回らないでしょう。デフロックを入れると、内輪差の補正をしなくなるから、このように回転半径が大きくなってしまうんです。でも逆にエキスパートがぬかるみで上手に使うと、戦車みたいにその場でクルッと向きを変えることもできるんです」
全くお恥ずかしい話だが、Gを所有していた2年半の間(多くのオーナーがそうであるように)このスイッチに触ったことは一度もなかった。こんな仕組みになっていたのか。
「今は体験していただくために入れています。これを舗装路でやると、デフのギアが傷むので注意してください。それでは最初に、あの低い方を坂に登ってください。勢いよくドンと当てずに、アクセルをジワッと踏む感じでいきましょう」

慎重に坂道を登る。世田谷の岡本町周辺にもこれくらいの傾斜の坂道はあるから、この程度なら経験済みだ。難なくこなす。坂の最後は左右段違いの階段になっている。ゆさゆさと大きく車体が揺さぶられるが、ミシミシというイヤな軋み音は一切発生しない。このあたりはさすがである。

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