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:トヨタのある三河は、東から今川が攻めてきて、北には武田信玄がいて、西には織田もいたじゃないですか。勢力争いの激しい土地だったんです

F:なるほど。

:会社の中でそれぞれの部署が、燃費第一じゃーとか、いやいやNVHじゃーとか、何言うとんじゃドライバビリティじゃーとか言い出したら、それこそ戦国時代みたいになってしまうじゃないですか(笑)。

F:三河にあるトヨタだからこそ、その調整がうまく取れたと(笑)。

:ま、これはネタですけどね。でも部署間でぶん捕り合いがあるというのは本当です。

 だってみんなサラリーマンなんですから。自分の部署のカテゴリー分をブン捕ってきたら、もしかしたらボーナスが良くなるかもしれない……。こんなふうに考えるわけですよ。そんなことしたって、別にボーナスは増えませんけどね(笑)。でもやっぱり、勤め人ってそういうふうに考えちゃうんですよ。習性として。

F:その非常に難しい調整を佐伯さんが取るわけですね。具体的にはどのようにして調整されたのですか。

:簡単です。「分かった。それじゃお前ら、明日から全員部署替えだ」と言うんです。

「お前の笑顔のために、俺は泣いてもいいぞ」と言えるか

:燃費の(部署の)やつは、明日からドライバビリティー屋になれと。ドライバビリティーをやっているやつは、NVH屋になれと。そうしたらお前、言うことが変わるだろうと。明日から全員だ。いいな、と。

F:あはははは。確かに。立場が変わったら言うことがコロッと変わる。前言撤回しまくりです(笑)。

:企業って、大きくなるとどんどん機能別になるんですよ。それぞれが専門家になってしまう。僕はみんなが専門家じゃなくて、クルマ屋になってほしい。クルマ屋のプロの仕事とは何か。「お前の笑顔のために、俺は泣いてもいいぞ」と言えることです。

 俺は燃費屋、お前はドライバビリティー屋。でもトータルで俺たちの造るクルマの良さを考えたら、燃費を少しでも改善したいと思っていても、お前の笑顔があるんだったら俺は泣いてもいいぞ、と、言えるかどうか。それができるのが、本当のいい意味でのプロとしてのチームワークだと思うんですね、僕は。

F:素晴らしいお話です。感動しました。でもそこに私のような人間が紛れ込んでいたらどうなりますか。「あっそう悪いね。それじゃドライバビリティーで領土をいただくわ。お前には泣いてもらうよ。はいこれハンカチ貸してあげる」……と平気でやっちゃうヤツがいたとしたら。