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レシピは盗まれても痛くない

:その通りです。この背反するところを、いかに両立させるかがタイヤ作りのキモなんです。我々は今、業界でも珍しい、特殊な混合機を使って練っています。だから非常に高性能なタイヤを作ることができるんです。

“秘中の秘”である特殊な混合機をはじめ、写真NGの機材が目白押し。「自動車メーカーさんとか、特別な取引先にしか見せないんですよ……」と50回くらい言われた。

F:練るノウハウが非常に大切なんですね。

:そう。材料を入れる順番、タイミング、回転数。超大切です。ある意味、材料のレシピよりも混ぜ方のノウハウのほうが大切かもしれません。

 キムタクのドラマじゃありませんが、材料の混合比率なんて、我々のレシピなんて、別にパクられたって痛くないんですよ。料理の方法、つまり混ぜ方が分からなければ、いいタイヤは絶対にできませんから。

F:いいですね。自信満々だ。

:とはいえ、おいしい料理にはやはり調味料も大切です。転がり性能、ハンドリング性能、ウェットブレーキング性能、これらすべてを向上しようと思うと、今はシリカを使わざるを得ない状況です。当社だけではなく、シリカを入れるのはここ10年ぐらいでまったく当たり前になってきています。

F:シリカ。SiO2ですね。

:よくご存じですね。ゴムの強度を落とさないようにしながら、このシリカをいかに分散性よく練るかが非常に大切です。

F:なぜシリカを入れるようになったのですか。

:転がり抵抗値を下げるためと、ウェットブレーキング性能を上げるためです。

F:粒状のシリカが、道路を噛むということですか。

:そうではなく、練り込むということです。シランカップリング剤という配合剤を入れて、ゴムと接合点を作って、ゴムに混ぜ込んでいるのです。

山積みになったタイヤの原料ゴム。色とラベルで種類がバレてしまうのでこちらもモザイク。ベテランになると、利酒師のように匂いでゴムの産地などが判別が出来るそうだ。

(※シリカの効果について、SPring8まで使って分析したリポートが公開されていました。「小角X線散乱法を用いた シリカ配合ゴムの解析」)

F:シリカの分量が増えた分、何かが減りますよね。何が減ったのですか。

:いい質問です。それがカーボンブラックです。カーボンブラックの代わりにシリカを入れるようになったのです。

 面白くなってまいりました。
 工場見学は本当に楽しいです。ゴムと溶剤の匂いにウットリします。
 この話は次週に続きます。お楽しみに!