全部、絶対に、やらなくちゃいけない新しいこと
藤:EVをやって、自動運転もやって、コネクテッドもやって、さらに先進安全もやらなければならない。いや応なしです。この流れはもう誰にも止められません。しかもこれらの技術は、我々自動車会社が今までやったことのない分野ばかりです。通信? 分かりません。セキュリティー? 分かりません。先進安全のカメラ? センサー? 電池の技術? みんな分かりませーん(ここで両手を挙げてバンザイのポーズ)。
F:なるほど。こればかりは今まで王道を歩んできたベテランのボディ屋さんやエンジン屋さんじゃどうにもならない。こりゃ大変なことですね。
藤:大変です。でもそれを“全部”、しかも“絶対”に、やらなくちゃいけない。
F:しかもそれらの多くは外からの買い物になる。すべてを自社開発なんて、逆立ちしたってできるはずがない。
藤:その通りです。多くが買い物になる。我々は板金だ、鍛造だ、鋳造だ、と長年コツコツ技術を積み重ね、コツコツ改良しながらやってきた。厳しい排ガス規制にしたって、白金だのパラジウムだの、みんなで工夫しながら一生懸命やって、何とかクリアしてきた。それが、これからはもう全然違う世界から、ボーンと競争で入ってくるわけです。
F:あれが足りない、これが足りないで採用していたら、それこそ社員の人数が倍になっちゃいますね。
藤:ええ、簡単に倍になっちゃいます。しかも開発費がまた我々には非常に分かりにくい。例えば、通信システムって開発にいくらのコストがかかっているの? って、我々昔からのクルマ屋には簡単には分からないんですよ。
F:例えばNECの人から「この通信ユニットの開発費は10億円です。アセンブリーすると、1台あたりの原価は10万円になります」とか言われても、ああそうなのね……となってしまう。
藤:いや、冗談ヌキで本当にそうなってしまう。今までなら板金物とか鋳造物とか、だいたいこれはナンボやな、お前、こんなに高いはずがないだろう、と分かるのだけれど、これからはそうはいかない。まったく分からない世界が来るんです。センサーがいくら? 分からない。カメラがいくら? 分からない。
F:ソフトが載っかると、もう1万と言われれば1万だし、千円と言われれば千円ですからね。
藤:そうですよ。ソフトウエアを載せたらバーンと10倍にも100倍にもなるじゃないですか。
それくらい大変な勢いで、世の中が変わりつつあるんです。今私が言った技術にしたって、これから速やかに採用しないといけません。これから売り出すクルマで、コネクテッドが採用されていなかったらそれこそボロクソに言われるでしょう。特に我々みたいな会社は、「お前、何やってんだ」とすぐに言われてしまう。先進安全にしたって、「お前ら、SUBARUがやっているのに、何をグズグズやっているんだ」と。

巷で言われている「100年に一度の変革期」。
我々乗る側としては、自動運転じゃツマラナイとか、EVじゃ音がしなくて寂しいとか、コネクテッドは監視されているみたいで気味が悪いとか、勝手に乗って勝手なことを言っていればいいのだが、造って売るほうは大変だ。
メーカーの“見えない苦労”に対して、「値上げしたな。高いぞ」の一言で片付けられてしまうのだ。自動車メーカーとはなんと不遇な商売であろうか。
藤:今度のMAZDA3には、それらの技術が全部入っています。だから当然、開発費もかさんでいます。それにそれぞれのユニットのコストもかかっています。だからモデルの下のほうから値段を上げざるを得ないんです。
F:マツダのプレミアム路線開始の橋頭堡としての値上げではない、と。
藤:違います。断じて違う。うんとコストがかかっているんです。あのクルマの開発には。
ますます冴えわたる藤原節。
大明神降臨祭は次週に続きます。お楽しみに!
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