F:マツダが世界戦略車と位置付けたクルマが、そこまで酷評されることに関してはどう思われますか。
藤:2012年にCX-5を出したでしょう。
F:はい。初のフルフルのスカイアクティブで、いわゆる「マツダ地獄」の汚名を返上した、記念すべき名車ですね。
藤:そう。そのCX-5。あれはある意味、バランスが取れていないクルマだったんですよ。
F:そうですか。とても運転しやすくて気持ちのいい、優れたクルマとの印象がありますが。
藤:あのクラスで2.2リッターのディーゼルエンジンで420ニュートンメートルという強大なトルクを与えていたんですよ。
F:トゥー・マッチ・パワーということですか?
藤:そう。あの車格、あの車重にしてはトゥー・マッチ・パワー、トゥー・マッチ・トルクです。バランスが取れていない。でも逆に言うと、「アンバランスとしての良さ」があったわけです。このトルク、この加速、すごいと。しかもお手ごろ価格。要するに乗ったときに驚きがあったわけです。
F:確かに。とても新鮮でした。凄いと思わせる衝撃がありました。
いい子なんだけど、なかなか結婚できない
藤:今回のマツダ3は、バランスに優れたクルマです。変な言い方ですが、バランスのいい方向に振り過ぎてしまったところがある。
F:バランスが良すぎる。
藤:そう。だからちょっと乗っただけでは、お客様にドーンと強く印象付けできないわけですよ。予定では世界初のSPCCI(火花点火制御圧縮着火)エンジンであるスカイアクティブXを載せて、“付きの良さ”はディーゼルで、“伸びの良さ”はガソリンで。3種のエンジンでそれぞれの良さを理解していただこうという考えだったのですが、スカイアクティブXの搭載が少し遅れてしまった。
F:スカイアクティブX搭載車は12月中旬に発売と伺いました。
藤:ええ。スカイアクティブXの前に出したガソリンエンジンとディーゼルエンジンでスカスカと言われてしまうのは、バランスが良すぎるからだと思っています。先入観ナシで普通に乗っていただければ、ものすごくいいクルマなのに、残念ながらドーンという驚きはこない。お客様のマツダに対する期待は、やはり「ドーン」というところが多分にあったのだと思います。
F:なるほど。お客さんのマツダに対する期待というものがある。そしてそれは「ドーン」というものだったと。
藤:ええ。マツダに対してお客様には、「お前らはこうじゃないか」という思いがある。踏めばドーンと来る。ドーンとしたトルクがあって、ちょんと軽く踏むだけで首がカクンと後ろに持っていかれるような加速感を期待されている。でも今回のマツダ3はそうではありません。踏めばスーッときれいに出ていくように仕上げられています。それで「いいクルマなんだけど、ちょっとね」と言われてしまうのではないかと思っています。
F:なるほど。会社にもいますよね。いい人なんだけど、なかなか結婚できない。
マイトのY:いや、意味が違います。
F:新しいマツダ3も、強く踏めばそれなりに加速はするのですか?
藤:もちろんアクセルペダルを強く踏めば強く加速するし、ゆっくり踏めばゆっくり出るようにしてあります。でもみなさんは軽く踏んだだけでブンと出ることに慣れきっておられるので。今回はあまりにもきれいな優等生的に造ってしまった。そこは反省点です。
優等生はいいことなんですよ、普段から長く乗っている側の人からすれば、絶対あの方がラクなはずです。
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