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だがさすがにピット側には下りてこない。怖い顔をした武装警官が睨みを利かせているからだ。

 実は今回の勝利には、ちょっとしたケチがついている。

 フェルスタッペンがルクレールを追い抜く際、クルマ同士が接触し、ルクレールが外側に弾き飛ばされているのだ。このアクシデントはスチュワードの審議対象となり、裁定が下るまでに2時間近くを要した。審議の開始は午後6時。最終結果を聞くまで帰るわけにもいかないので、私は松本さんと、ホンダのトレーラーの中で、ドキドキしながら公式発表を待っていたのだ。

「飲め、飲め。ビールを飲め」

 8時前になりようやく「シロ」判定。やれやれそれじゃ帰りますか……と駐車場に向かうシャトルバスの停留所に向かったら、停留所そのものが撤去されている。F1はレースの速度も速いが、撤収もまた速いのだ。仕方ない、歩いて帰りましょう。おや、こっちを抜けると早そうですよ。近道のつもりで通ったのがファンたちが群れ集うキャンプサイトだったのだ。

 ここを通ったが百年目。誰がこのまま帰らせようか。かくして冒頭のシーンの「土下座」や、いささか乱暴な「熱烈歓迎」を受けた次第なのである。

うっかりキャンプサイトに迷い込んだら……。

 「飲め、飲め。ビールを飲め」
 「ありがとうございます。でも僕たち、クルマなんですよ」
 「なに、大丈夫だ。今日はHONDAといえばポリスも見逃してくれるさ」

 すべてがこんな具合である。最初はメディアで来ていると説明していたのだが、何度も話すのが面倒になり、途中から私もHONDAで通すことにした。