まずはこの写真をご覧いただきたい。
たまたま通りかかった我々に対し、地面に平伏して全身で感謝の意を表す、本日のレースの若きチャンピオン、マックス・フェルスタッペンの熱心なファンの姿である。

「ありがとう、ホンダ!ありがとう!」
「一緒に飲もうじゃないか兄弟。俺たちは本当に嬉しいぞ」
彼らは口々にこう叫び、ある者は駆け寄り握手を求め、ある者はプロレス技のベアハッグさながらの強烈なハグをし、またある者はジョリジョリとひげ面を押し付けて頬に強引にキスをしてきた。
レースに勝つということは
「いや、僕はホンダのスタッフじゃないんですよ。一緒についてきたメディアの人間でしてね……」。いくら説明しても聞き入れてもらえない。「日本人ならみなホンダ」の超拡大解釈で、バンバンと乱暴に肩をたたかれ、次々とビールが差し出される。もうメチャクチャである。
心からの狂喜。文字通りの乱舞。
こだまする「HONDA! HONDA!」の大合唱。
その声に引き寄せられるように、キャンプサイトの奥のほうからもわらわらと人々が集まって来る。ファンにガッチリ包囲された我々は、前に進むことすらままならない。
もみくちゃにされながら、ホンダ広報の松本さんは「フェルちゃん。レースに勝つって、こういうことなんだなぁ……」と涙声でつぶやいた。

2019年6月30日、F1オーストリアグランプリでホンダのエンジンを搭載したクルマが優勝した。
2006年8月6日のハンガリーグランプリ以来、実に13年ぶりの快挙であり、世間で“第4期”(ホンダはこの表現を公式には認めていない)と呼ばれる2015年のF1復帰以来、初めてつかんだ栄冠である。長い間待たされたファンが嬉しいのはもちろんだが、誰よりも嬉しいのは、もちろん悩み抜き苦しみ抜いてきたホンダの企業戦士たちであろう。
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