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:子供だったので送り迎えはしてもらいましたが、あまりベッタリという感じではありませんでした。順位もあまり気にしている様子はありませんでした。他の子のお父さんなんかは、子供が負けてくるとビンタしているような人もいましたが、僕の父親はむしろ勝敗には無関心でした。

F:お父様は昔レースをやっていたとか、そういう方なのですか?

:いや、それが全然。父はレースにはまったく関係ないです。トラックの運転はするかもしれませんが(笑)。で、そこで練習を始めて、1年後のレースで優勝できたんです。

F:1年で! すごい!

:あくまでも地方戦、しかも小学生クラスでの話ですが、それでもやっぱりレースで勝つのってものすごく嬉しいんです。それでどんどんハマっていって、翌年の2011年には全日本に出るようになりました。そこでその年は2回優勝して、シリーズでも2位になって。徐々に勝ち進んでいったんです。

F:それでSRSに入って、スカラシップも獲得して。すごいな。順風満帆のトントン拍子じゃないですか。

:そう言えればカッコいいんですが、実は僕、1回挫折しているんですよ。SRSで1回落ちているんです。本来なら1回落ちた人はそのままサヨウナラで、二度と入校できるチャンスはないんですが、僕の場合は一番年齢が下だったこともあって、「もう1回来たらどう?」と特例的に声を掛けていただいたんです。

F:来たらどう? と言うからには、無料なんですよね。

:いえ、無料ではありません。大変なお金を払わなければいけません。でもこのチャンスを逃したらもう次はない。なんとしてもお金をかき集めてチャレンジするしかない。ここでコケたらホンダでチャレンジすることは二度とできなくなるわけです。後はトヨタに行くしか道はないんです。でも僕の将来の夢はF1なので。絶対にF1に行きたいので。そこはやはり実際にF1をやっているホンダに行きたいという思いが強くありました。だからホンダから「もう1回来てもいいよ」と言われたときには、もう心に決めていました。もう次はない。もう後がない。何が何でもやってやるぞ、と。

 言っておくが、これは18歳の青年が話す言葉である。私の息子よりも年下の、高校を出たばかりの兄ちゃんが話す言葉である。それなのにこの決意はどうだ。この覚悟はどこから来るのか。

F:あの……F1にはそんなに行きたいですか……。

:レースを始めてから、もうそれしか思っていないです。そうですね、物心がついた10歳のころから、それしか目指していないです。僕の人生からレースを取ったら、本当に何も残りません。中身スカスカのカラッポです(笑)。

F:名取さんからレースを取り上げたら、ただの兄ちゃんということですか。

:いや、ただの兄ちゃんですらありません。中身の9割はレースでできていますので。

大事なことを引き寄せる力

F:常にレースのことばかりを考えているのですか。

:もちろんそうです。部屋に帰ったら、レースの動画を振り返って反省するべきところは反省して、そして明日はどうするべきかを考えて。これはもう子供のころからやっている習慣です。これを毎日やっているんです。

F:すごい。それだけの強い思いがあれば、きっとF1に行けますね。

:いや、そんなに甘くないです。これくらいのことはF1を目指している誰もがやっていることですし、誰もが思っていることです。もちろん高度なドライビングスキルが必要ですし、資金面でのサポートも必要です。さらにそこにタイミングという要素も加わってきます。

F:タイミングというと……。

:シートが空いていなければ、そこには座れませんよね。

F:あー……。

:成績も大事、経済面も大事、そのほかにもこれから上にいくに従って、いろいろと大事なことが増えてくるのだと思います。そこを自分で何とかうまく、大事なことを引き寄せるようにしなければいけないなと思っています。