みなさまごきげんよう。
フェルディナント・ヤマグチでございます。
今週も明るく楽しくヨタ話からまいりましょう。
私の勤務する会社は非常に気前がよろしゅうございまして、10日間のロンバケをいただいております。本稿がUPされる予定の火曜日までは沖縄で過ごし、今日から台北に向かう予定です。一方働き方改革を散々記事にしている日経BP社。担当編集マイトのY氏は連休中日の今日も出社されているようでございまして、心よりお悔やみ申し上げる次第であります。お仕事頑張ってくださいね(はーと)。
さて、そんなY氏が本を出しました。
『マツダ 心を燃やす逆転の経営』であります。
「忙しい」「時間がない」「原稿が遅い」、と始終泣きを入れているY氏ですが、本を書く時間はあるんですな。それならもっとギリで出稿してもいいわけだ(笑)。
とまれ、この本の印税でマツダのクルマに買い替えるそうですから、みなさまぜひ1冊(←買い替えません。人聞きの悪い。そもそもうちで書いた本の印税は編集部に行くんです! あっ、連動記事もあります。こちら:Y)。
「実は私もまだ読んでないんですけどぉ(松本伊代調)」。Y氏の書いた本ですから間違いはありますまい。
マイトのY氏渾身の一冊。ハゲてきたので顔を出したくないとかヌルいことを言っておりますが、どうせなら丸坊主にしちゃえばいいじゃないですか。似合いますよきっと。
またかと言われそうですが、連休前の週末もスキーに行っておりました。ようやくスキー場までのラッセルも終わり、前の週にオープンしたばかりの月山です。
日ごろの善行の賜物でしょうか。雲ひとつない快晴であります。トライアスロンは毎回必ず荒れますが、スキーは晴れる(笑)。
場所によってはこのように雪庇が張り出しています。恐る恐るトラバースして、ちょっとした冒険気分。いや、楽しゅうございました。
この歳になりますと、ただ闇雲に滑るだけでは満足できません。
たとえスキー旅行であっても、「食」は重要な項目であります。
で、訪れたのが山菜料理で有名な西川町の出羽屋。
この時期はまだフレッシュな山菜が少ないのですが、それでも工夫を凝らした料理は非常においしく楽しいものでした。
川魚もおいしかったな。来月も来ますのでよろしくお願いします。
東京では久しぶりに会う先輩にご馳走になりました。
三菱商事で長くエネルギー畑を歩まれ、現在はCheniere Energy Inc. でシニアアドバイザーを務められている黒田克己先輩。
少し前にアジア水泳連盟水球委員長に就任され、国際水泳連盟水球委員も兼任。公私共に充実しておられます。
黒田さんには私が中学生の頃から大変お世話になっておりまして、緊急時対応のノウハウもたくさん教えていただきました。緊急時と申しますのは….以下略。
オリンピックを控え、何かとお忙しい黒田先輩。楽しゅうございました。
最後はこちら。渦中の日産のみなさまと下北沢でしめやかにお食事会。
ゴーンさんは何度も逮捕されるし。あの人は辞めちゃったし、この人は変なこと言うし、いろいろありますからね。近々日産の「意外な方」にお目にかかり、インタビューをするかもしれません。
ということで本編へとまいりましょう。
今回お届けするのは、ホンダの若きF1エンジニア、湊谷圭祐さんのインタビューです。
湊谷さんは、レッドブル・ホンダF1チームのピエール・ガスリー選手“専属”のエンジニア。
ガスリー選手のフィーリングから来る「言葉」をエンジニアの立場から「翻訳」し、それをマシンのセッティングに生かしていく、非常に重要なお仕事をしています。
いくらレーサーの技量が高くても、またいくらマシンのポテンシャルが高くても、両者が噛み合わなければ、レースに勝つことはできません。
ホンダの社員なら、誰でも一度は憧れる「F1の仕事」を、湊谷さんはいかにして掴んだのか。また、そもそもF1のエンジニアとはどんな仕事なのか。詳しくお話をうかがいます。
F:はじめまして。今日はよろしくお願いします。お忙しいところお時間を頂き恐縮です。
湊谷さん(以下湊):いえ、決勝は明日ですから大丈夫です。
F:湊谷さんは何年入社ですか。
湊:僕は2009年の入社です。大学では機械工学を専攻していました。専攻は機械ですが、やっていたのはソフトウエア回りばかりで、お医者さんが学会で使うウェブサーバーの運用とか、機械とは縁遠いことばかりに取り組んでいました。だから機械工学と言っても、実際に油で手を汚したことはないんです。
F:なるほど。メカなのにソフトばかりを。
湊:ええ。アルバイトもそうで、ずっとプログラムを作っていました。CTスキャナーの輪切りの画像を3D化するとか、そんなソフトを作る会社で、バイトなのに結構な責任とボリュームの仕事をしていました。そこの社長さんからは、「このままウチに就職しろよ」と、随分誘っていただいたのですが、就職はホンダにしました。
ホンダに落ちていたら……どうしていたんだろう。
F:どうして自動車会社、どうしてホンダだったのですか?
湊:単純にF1がやりたかったからです。だからホンダしか受けませんでした。
F:1社しか受けなかった。もしホンダを落ちたらどうするつもりだったのですか。
湊:どうしたんだろう……。考えていませんでした。いや、いま考えると恐ろしいです(笑)。「俺はホンダに入ってF1をやるんだ」、と自分で勝手に決めていましたから、他の選択肢は一切考えていませんでした。
F:F1への思いはいつごろから始まったのですか。
湊:1997、98年ごろでしょうか。ミカ・ハッキネンと、ミハエル・シューマッハが戦っていたころですね。それからドップリF1の魅力に取り憑かれてしまい、それがいつか「ホンダに入ってF1をやる」という思いに変わっていったんです。
F:なるほど。
湊:就職したのが2009年。つまりホンダを受けて内定をもらったのが2008年の夏ごろということになります。2008年の暮れに、ホンダはF1から撤退することを表明したんですよね(苦笑)。
F:あー。
湊:マジかーって感じです。心底ガッカリしました。
F:でもまぁ他のレースは続けていたのですよね。GTとかMotoGPとか、インディもやっていたでしょうし。
湊:いや、自分的にはやっぱりF1なんですよ。F1と他のレースはぜんぜん別物ですから。
「湊谷君の気持ちも分かるんだけど……」
F:それでもともかく就職した。最初に配属されたのはどのような部署だったのですか? 新入社員をいきなりレース部門、というわけにはいきませんよね。
湊:もちろんそうはいきません。最初は量産のエンジン開発部門です。そこでOBDを担当していました。
F:OBD。オンボード、ナントカ……えーと、何の略でしたっけ?
湊:オン・ボード・ダイアグノーシス。故障検知をしたりする自己診断機能です。一酸化炭素とかススとかが規定値より多く出てしまう排ガスのトラブルがあるのですが、私はそれを検知して、ランプを点けて知らせるような機能の開発を4年くらいやりました。
F:そこから、どのようにしてF1のエンジニアになったのですか。
湊:ホンダは年に3回、評価と今後の進み方について上司と話し合う機会があるんですが……。
F:それは夏冬の賞与のときと。
湊:そうそう。夏冬のボーナスを貰うときと、あと期末ですね。3月、6月、12月。そのときに「今の君の評価はこうだよ」というのと、「それでこれからどうしたいの?」ということを話し合うんです。で、そのときに必ず「僕はF1をやりたいですね」と。
F:上司のほうも困りますよね。「湊谷君の気持ちも分かるんだけど、いまウチはF1をやっていないからねぇ……」としか答えられない(笑)。
湊:そうそうそうそう(笑)。でもある日、上司の言い方が急に変わって、「お前、今でもレースに興味があるか?」「海外勤務でも構わないか」と。
F:おお!
湊:もちろんです、と即答して。でもまだこの段階では具体的にF1の話は出ていませんでした。裏の話をすると、2012年にF1挑戦の事前検討メンバーが極秘で集められて、13年の年初に設計系のメンバーに声がかかり、5月ころにテストとか制御とかの研究系に声がかかってジワジワと進めていたんです。
F:社内外には一切秘密で。
「勉強中」は本当だった!
湊:もちろん一切秘密です。それこそ家族にも話すなと言われていました。それでもどこから漏れるのか、チラチラと噂には出てしまうんです。早耳の雑誌には「ホンダがF1に参戦決定」なんて臆測で記事が書かれたりもしました。でも対外的なオフィシャルの回答は何を聞かれても「勉強中」というものでした(笑)。
F:「勉強中」、以上。と(笑)。受験生みたいですが、実はもうバリバリ開発を進めていた。
湊:いえ、最初のころはバリバリじゃないですね。まずはレギュレーションの理解から始まりました。「今のF1ってどうなっているの」というところからです。だから煙幕のつもりで話していた「勉強中」というのも、決してウソではなかったんです。
当時運用されていたレギュレーションは、2010年に決められたものです。他のチームは、みんなスタートからそのレギュレーションに沿って開発を進めています。進めていますというか、そもそものルールを決めているのも彼らです。
F:「彼ら」というのは、つまりメルセデスとフェラーリですか。
湊:あとはルノーですね。この3社が決めています。
F:参戦するメーカーが大会のレギュレーションを決めるのですか。何かシックリこない話ですね。
湊:危険を伴うレースですし、なにより巨額のマネーが動きますから、そこは(主催するFIAと)参加者が十分にやり取りをした上で行うんですね。次回決まる新レギュレーションは、我々も検討メンバーに入っています。ここでやっとスタート地点が同じになるというわけです。
F:なるほど。ともかくそれで念願かなってF1のチームに入ることができたと。勤務地はイギリスですか?
湊:はい。イギリスです。
F:ご家族もご一緒に。
湊:はい、一緒にイギリスに来てもらっています。家族にはものすごい負担をかけているかな、というのが正直なところです。しかも世界中で行われる21戦すべてに(自分は)帯同するわけですから、家族をイギリスに残して自分は国外に出ていることがほとんどです。
F:まあでも留守にするのは奥さんが日本にいてもイギリスにいても変わらないですよね(笑)。
湊:そうなんですけどね。あとは子供の学校の問題とか。自分はF1が好きだからこんなにありがたいことはありませんが、家族にしてみれば何のメリットもないわけで。
F:お子さんがイギリスで教育が受けられるなんて最高じゃないですか。最高のメリットですよ。
湊:そうですね。英語環境で育てるというのはメリットではありますね。
F:実際にF1の仕事に関わりだしたのはいつですか。
湊:2013年の4月です。6年前です。
F:具体的にどのような仕事をされているのですか。パワーユニットを見ているとうかがいましたが。
湊:はい、パワーユニットです。ホンダの役割は大きく分けて2つになります。1つはPUの信頼性。もう1つがパフォーマンス。PUの性能面です。
F:ホンダの仕事はあくまでもPUだけ、ということですか。クルマ全体のことは見なくてもいい?
湊:「PU供給」という意味ではそうなのですが、当然クルマ全体にも関わってくるので、必要に応じて、「PUとしては多少性能を落としたとしても、クルマが速くなるんだったら落としたほうがいいよねと」いう話はあります。
F:へぇ。性能を落としたほうが結果として速くなることなんてあるんですか。
湊:今のは極端な話です。普通はないのですが、時として、ということです。
ホンダ広報大いに焦る
F:PUの構成を教えてください。1600ccのエンジンがあって、同軸線上にターボがあって発電機がある。
湊:はい。ここにエンジンがあるとすると、この先にターボがあって、それからここに……。
広報松本(以下松):ちょちょちょー! レイアウトに関してはお話できません。湊谷さん、ここは話しちゃダメよ。
湊:え、あ。そうなんですか。
松:どこのメーカーも、位置までは話していないので。
F:同軸線上にあるというのはいいですよね?
湊:はい。同軸線上にあります。それはレギュレーションがそうなっているので。
F:長い軸がどーんとあるというイメージですか。
松:長さが長いのか短いのかというのは、各チームによって全然違います。
F:メルセデスと同じレイアウトと聞きましたが。
松:それも言えません。ウチも言えないし、向こうも言っていない。向こうが言っていないのに、ウチが一緒ですとは口が裂けても言えません。
F:なるほど。言えるのはすべてが同一線上でつながっているということだけですか。
量産車とは違うのですよ
湊:普通のターボ車のウェイストゲートって分かりますか。
F:分かります。あのプシューっと圧を逃がすやつ。
湊:そうですそうです。ターボエンジンはタービンで排気ガスからエネルギーを吸収するので、全開で走っていくとターボの回転数って際限なく上がっていくんですよ。ターボの回転が際限なく上がっていくとどうなるか。シリンダーに押し込む空気が際限なく増えていくので、エンジンに対する負荷もどんどん上がっていってしまう。
F:なるほど。エンジンに空気が入り過ぎちゃう。
湊:そう。入り過ぎちゃう。だから壊れちゃう。もう一つマズいのは、ターボの回転数が上がり過ぎると、遠心力でターボ自体が壊れてしまう。超高速回転でシャフトが“振れ”で壊れちゃったり、タービンのブレードが割れちゃったり…..。だから通常のクルマは、必要なトルクがある限りはウェイストゲートを開けて排気のエネルギーを外に逃がしてやる。信頼性のためです。
F:本当はギリギリまで圧を使いたいんだけど、エンジンとターボを壊さないために逃してやる。
湊:そうです。それが量産車の考え方です。
F:昔、暴走族の人がこれ見よがしにプシュプシュやっていたじゃないですか。ポン付けのターボで。あれは必要なものだったのですね。
湊:暴走族でも一般車でも、あれは必要なものです。あれがないと際限なく回り過ぎちゃうので、どこかでコントロールしなきゃいけない。壊れる手前で。ターボ車であれば必ず付けるものです。で、ここからが我々のパワーユニットの話です。
左から、私、今回お話を伺った湊谷さん。次回お話を伺う予定の鈴木さん。鈴木さんの経歴が面白いんだまた。
おっと。いいところですがそろそろ会社に行く時間です。
休みの間に(今度こそ)原稿貯金をする所存であります。
沖縄と台湾でそれぞれ1本ずつ書こうと思います。
それではみなさまごきげんよう。
マイトのY氏はお仕事頑張ってねー(笑)。
日経ビジネスから『カリスマ失墜 ゴーン帝国の20年』『マツダ 心を燃やす逆転の経営』の書籍2点を刊行!
『カリスマ失墜 ゴーン帝国の20年』
倒産寸前の日産自動車を再建し、カリスマ経営者の名をほしいままにしたカルロス・ゴーン氏。2018年11月に突如逮捕され、権力の座から転落した。ゴーン氏とは、いったい何者だったのか? いかにして絶対権力を握ったのか? その功罪とは? 転落の背景には何があったのか? 「日経ビジネス」が追い続けた20年の軌跡から、ゴーン氏と日産・ルノー連合の実像に迫る。
『マツダ 心を燃やす逆転の経営』
「今に見ちょれ」──。拡大戦略が失敗し、値引き頼みのクルマ販売で業績は悪化、経営の主導権を外資に握られ、リストラを迫られる。マツダが1990年代後半に経験した“地獄”のような状況の中、理想のクルマづくりに心を燃やし、奮闘した人々がいた。復活のカギ「モノ造り革新」の仕掛け人、金井誠太氏(マツダ元会長、現相談役)がフランクに語り尽くす。改革に使われた数々の手法の詳しい解説コラム付き。
この記事はシリーズ「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。
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