ジムニーはスズキを代表する特別なクルマだ。
 特別な思い入れを持つ人が多いため、開発に関して、社内外からアレコレと口を出してくる人が大勢いる。みんな気になって仕方ないから、何かしら関与したがるのだ。

 どんなことに口を出してくるのですか、と尋ねると、米澤さんは
 「それはもう、ありとあらゆることですよ。それをいちいち100%聞いていたら、もうジムニーどころか、クルマじゃなくなっちゃうんですよ」と答えた。
 今回は、そのあたりから掘り下げていこう。

スズキ・ジムニーの開発者、四輪商品第二部チーフエンジニア、米澤宏之課長(右)
スズキ・ジムニーの開発者、四輪商品第二部チーフエンジニア、米澤宏之課長(右)

F:いろいろ言ってくる意見の中には、「はぁ? 何言ってんの?」というようなトンチンカンな……的の外れた意見もあるのでしょうね。

米澤さん(以下米):ありますね。それはありますよ。

F:トンチンカンな意見のナンバーワンは、どのようなものでしょうか。その辺の知ったかぶりのシロートではなく、“ある程度乗りこなす人”が言ってくる中で、変な意見はありますか。

:ある程度乗りこなす人というのは、みなさんほぼ同じことをおっしゃいます。それは、「一番厳しいところを行くために、こうしてほしい」ということです。例えば基本骨格は守ってほしいとか、トランスファーはかくあるべしとか、構造レイアウトはこうだろうとか、ここはどうしてもヒットする場所だから、こんな処置をしてくれとか。やっぱり本気で乗っている人の意見は基本的にみんな一致するんです。

関係のない人のご意見は……

F:なるほど。正統派のジムニー乗りは、あまりトンチンカンなことは言ってこない。

:そうですね。やっぱり社内外とも、関係のない外野の人がいろいろ言ってきますね。もっと大きくしてくれとか、そんなことを。基本骨格さえ決まってしまえば、それ以降はもう自分の中では味付けの領域なので、何を言われても関係ないんですけどね。

F:大きくしてくれ以外に、トンチンカンな意見はありましたか。

:あったかもしれませんが、いちいち覚えてないです。あまりそういう外野の意見は気にしないので。

F:もう単純にノイズとして扱ってしまうのですね。

:そうですね。設計者としても、やらなきゃいけないことと、やっちゃいけないというところは十分に分かっていますから。

F:ジムニーの開発って、スポーツカーの開発に似ていますね。トヨタ86のチーフエンジニアである多田さんも同じようなことをおっしゃっていました。本当にアチコチから「ああせいこうせい」と言ってくると。トイレで横に並んだときに「おい多田、お前な……」と言ってきたり、役員の人に呼び出されて、すでに決まったデザインを「こうしたほうがいいんじゃないか」と迫られたり、その辺の調整には大変なご苦労をなさったとうかがいました。

:ウチの場合は違いますね。今回のデザインも、1回決まったらそれ以降は何もぶれなかったですし。

一同:おー!

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