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 と、機長のアナウンスのトーンが変わった。そして、「私事で恐縮ではございますが……」と話し始めた。なんだ、定年退職で今日が最後のフライトとか?

山田機長、ありがとうございます!

 浪花節でも始まるのかと思いきや、さにあらず。機⻑はF1の⼤ファンだったのだ。

 ホンダF1の黄金時代であるいわゆる「第二期(1983~92)」以来の大ファンであること。フライト前にアルバートパークでホンダの勇姿を見てきたこと。ホンダが勝って本当に嬉しいこと。そしてホンダF1のチームが当機に搭乗していることを光栄に思うこと……。

 お堅いイメージのJALの機長だが、こんなことも話すんだ、と興味深く聞いていた。
 すると、ようやくトイレのドアが開いた。
 長グソの犯人は、誰あろう山本部長であった。大きな目には涙がいっぱい溜まっている。

 そして「嬉しいね。俺ら、頑張らなきゃいけないね。勝たないといけない。こんなところにもファンがいて応援してくれているんだもの。俺ら、絶対に勝たなきゃいけない」。そう言ってポロポロ泣いた。

山本部長はすぐ泣く。表彰式直後の写真。

 これはぜひ機長に会わなければなるまい。山本部長にも会ってもらわねばなるまい。

 美人のCAさんを捕まえて、機長への面会をお願いした。
 保安上の理由、ということで、「すべての乗客が降りた後」に、「機体の外で」という2点を条件にご快諾をいただいた。準備が整いましたらお声がけをしますので、お席でそのままお待ちください、とのことだった。全員が降りるまでには、案外時間がかかる。

ホンダ第二期以来のF1ファン、日本航空の山田機長。JALに乗ってよかったです。

 山田機長とはその後何度かメールでやりとりをさせていただいた。
 3本目のメールに、F1に対する機長の熱い想いが綴られていた。
 以下、私信であるのだがあえて全文を公開する。もちろんご本人の許可をいただいている(本文は原文ママ)。

フェルディナント・ヤマグチ様

先日、JL774便を担当致しました機長の山田です。弊社の便にご搭乗頂き有難うございました。

この度は、ホンダの走りの頑張りに触発され、僭越ながら機内にてアナウンスさせて頂きました。幾ばくか私のF1への長きに渡る情熱が皆様に伝えられたなら幸いです。
アナウンスでもお伝え致しましたが、私は、1987年鈴鹿で開催された日本GP以前からのF1ファンです。ウィリアムズホンダが徐々に力をつけ、ピケ、マンセルが疾走する姿に、受験勉強そっちのけで熱中した記憶があります。当時はF1を取り上げるメディアは少なく、情報を得るのにとても苦労しました。無い頭で必死に考えた末に、当時タイヤ供給していたグッドイヤー社の日本法人に問い合わせて、プレスリリースのコピーを送ってもらったりしました。

第2期の「強いホンダ」を知る者として、今回の開幕戦の走りは、久々胸のすく快走でした。