冷静な判断を妨げる「同時代性の罠」

 サブスクリプションがそれ自体で競争優位に結びつかないのはメディアだけではありません。ハード機器のサブスクリプションでも同様です。例えば、エレベーター業界は以前からサブスクリプションに依拠した商売を続けています。昇降機の製造のみならず、保守点検というサービス料金を定額課金することでビジネスを成り立たせてきました。昭和の高度経済成長期から現在に至るまで、ビジネスモデルの基本構造は全く変わっていません。

 日本では現時点で、フジテック、日立製作所、東芝、三菱電機、日本オーチス・エレベータが主要なプレーヤーですが、各社とも常に厳しいシェア競争にさらされており、サブスクそのものが収益に結びついている様子はありません。

 サブスクブームは「同時代性の罠」の典型です。特定企業の成功事例が、その企業が長い時間をかけてつくってきた文脈から引き剝がされ、それが同時代のノイズをふんだんに含んだ情報としてメディアで短期間のうちに急速に拡散します。その結果、「サブスク=新しくて何かすごいビジネスモデル」という言説が一人歩きします。戦略や競争優位の実体と「サブスク」という課金方式(戦略ストーリーの全体を構成する一要素)がいつの間にかごちゃまぜになっているのです。

 一歩下がって俯瞰(ふかん)してみれば、サブスクリプションは古くから存在する課金方式の1つであり、新しいトレンドでも先駆的な最新のビジネスモデルでもないことはすぐに分かります。にもかかわらず、「これからはサブスクだ!」(だいたいこの手の「短縮語」が世の中に定着すると要注意)とばかりに拙速な判断と行動に出てしまう会社が少なくない。それは戦略ストーリーの破壊を招きます。ここに同時代性の罠の怖さがあります。

 「逆・タイムマシン経営論」の連載の導入として、今回はあえて現在進行形の事象を取り上げました。ポイントは、その時点で雑誌や新聞やオンラインメディアが喧伝する情報や言説には、同時代のノイズが含まれており、同時代性の罠が潜んでいるということです。

 同時代性の罠にはまらないためには、近過去に遡って当時の言説を現在の目で再考し、そこから教訓を引き出すという知的トレーニングを意識的に行うことが大切です。次回はいよいよ逆タイムマシンに乗って1990年代に遡り、当時のビジネス界を席巻していた「ERP(統合基幹業務システム)」という「飛び道具トラップ」をめぐるドタバタ劇を検証します。