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 パナソニックは、どのようにイノベーションを生み出せる組織へと変わろうとしているのか。パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社の樋口泰行社長と、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授の対談を通じて、「大企業病」を打破するためのヒントを探る。

 第5回は、日経ビジネス読者との対話を紹介する。樋口氏からは「会社を変えるには感受性と正義感が必要」、入山氏からは「辞めたらいい」といった大胆なアドバイスが飛び出した。

※本対談「日経ビジネス Raise LIVE」は2019年11月7日にパナソニックCNS社の本社(東京・中央)で開催しました

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第4回 未来志向の大胆な意思決定ができない理由
(写真:北山宏一、以下同)

大竹剛(日経ビジネス、以下、大竹):場が温まったところで、皆さんからも質問を受けたいと思います。

経営層の感受性を高める

質問1

メディア企業に勤めています。メディアもご多分に漏れずデジタル化が進む中で、新たなことに取り組まなくてはいけないという危機感を漂わせていますが、なかなか取り組まない。危機感を抱く人たちが、そんな状況を変えていくためには何をしたらよいでしょうか。

樋口泰行氏(パナソニック コネクティッドソリューションズ社社長、以下、樋口氏):それは本当にどの会社でもよく聞く話ですよね。変えていくには、感受性がまず大事です。そして、現場で起こっていることに対する正義感を持つこと。この2つが重要だとしたら、会社を変えられる立場にある人、すなわち経営層の人の感受性が低い。一方、感受性の高いミレニアルなどの若い世代が、会社を変えられるポジションにいない。

 そして、感受性も正義感も、両方ないのが中間管理職です(笑)。やはりトップが感受性を持たない限りはまず難しい。そのため、そういうムーブメントを何とかつくり出していく必要があります。

 では、感受性を高めるピープルマネジメントをどうやっていくか。そこが難しいのですが。

入山章栄氏(早稲田大学ビジネススクール教授、以下、入山氏):感受性を高めるには、とにかく現場に下りていくことだと思います。 コンテンツでいえば、若い人はテレビ番組をほとんど見なくなりましたよね。Netflix(ネットフリックス)やYouTube(ユーチューブ)を見ている。僕の子供もそうです。そういう現実をトップは意外と知らない。知っていても、聞いたり読んだりしただけでは駄目で、「やばいぞ」と肌で感じないと変わらないと思います。

「フルデジタル」と「単品金物」の間にチャンス

質問2

樋口さんにお聞きします。パナソニックに戻るに当たって、担当する事業は樋口さん自身が選んだのですか。もしくは、任されたのですか。また、ソリューション事業をかなり前面に出していますが、これは様々なパナソニック製品をソリューション事業でまとめていくようなビジョンがあるのでしょうか。

樋口氏:パナソニックに戻るに当たり、私のような者でもよければ、言われたところを言われた条件でやりますと伝えました。私からは何も希望を言っていません。たまたまこのCNS社の担当になったという感じです。

 ソリューション事業についてですが、かつて日本は今の中国のように、あらゆる製品を高い品質で安く作ってコモディティー化してきました。欧米企業はたまったものではないといってBtoB(企業向け)にシフトしたり、戦い方を変えたりしてきました。今、同じことを日本企業はしなくてはなりません。

 特にこの電機という事業領域では、(テレビなどの)いわゆる黒物家電がデジタル化とインターネットでディスラプト(破壊)され続けてきました。昔、私はオーディオが趣味で、お金が入ったらアンプを買ったりチューナーを買ったりスピーカーを買ったりプレーヤーを買ったり、量販店のオーディオ売り場に行って1つずつ製品を買いそろえていくのが楽しみでした。

 しかし今、オーディオ売り場へ行くとブルートゥース搭載のヘッドホンとスピーカーが並んでいます。音は天から降ってくるようになって、これまでいろいろあったオーディオ製品が全部中抜きされてディスラプトされました。

 これは1つの例ですが、単品金物の製品はどんどん中国メーカーにキャッチアップされてしまいます。一方、フルデジタルの世界では、米グーグルや米アップルなどのテックジャイアントには、もう逆立ちしても勝てません。では、どこで勝負するんだというと、やはり差異化されたハードウエアか、面倒くさいし時間もかかるというディープテックに張るか、あるいはそれと何かの組み合わせ、あるいはお客様との共創によって生まれてくる参入障壁を築ける何かに取り組むか、それくらいしかありません。

 かつ、創業100年になるパナソニックの物づくりのDNAをレバレッジできる分野。工場だけじゃなくて、倉庫、流通、レストラン、小売りなど、人手不足で自動化が待ったなしの状況なので、そこで活路を見いだせると考えてビジョンをつくりました。