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パナソニックは、どのようにイノベーションを生み出せる組織へと変わろうとしているのか。パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社の樋口泰行社長と、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授の対談を通じて、「大企業病」を打破するためのヒントを探る。

 第4回は、なぜ、多くの日本企業では未来志向の大胆な意思決定ができないのかを、樋口氏と入山氏が議論する。そこには、「大企業病」に潜むいくつかの構造的な原因があった。

※本対談「日経ビジネス Raise LIVE」は2019年11月7日にパナソニックCNS社の本社(浜離宮ビル)で開催しました

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第3回 人材が組織に“最適化”されるカルチャーを壊せ
早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授(写真:北山宏一)

入山章栄氏(早稲田大学ビジネススクール教授、以下、入山氏):樋口さん、会社を変える上で、どの辺りが今も課題ですか。

樋口泰行氏(パナソニック コネクティッドソリューションズ社社長、以下、樋口氏):会社の経営を大きく2つに分けると、「戦略」と「オペレーション」です。カルチャーやマインドを健全にすることで社員同士のコミュニケーションが良くなり、組織間の連携が進んでお客様志向になります。でも、「オペレーション」を日々、改善していくためのもので、経営のもう片方である「戦略」については、多くの日本企業が大胆な転換をしなければいけない段階に入っている。そこをどうやっていくかが、最も頭が痛い部分です。本当に会社が駄目になってから戦略を転換するのでは遅いので、その前にやらなくてはなりません。そのことが今、私の頭の半分以上を占めています。

入山氏:なるほど。「センスメーキング理論(物事に『意味付け』を行い、周囲を納得させて行動する)」というのが経営学であるのですが、たぶん日本の大企業で起きていることは、大きな方向感に社員がなかなか納得できていないということかもしれません。

 10年後、20年後、もしかしたら30年後ぐらいまでの方向感の中で、「リスクはあるけれども、こっちに進んでいくぞ」という納得感を醸成させていくのが必要ですが、まだそこまでは行けてないという感じでしょうか。

樋口氏:その納得感というのが難しいんです。戦略リテラシーが必ずしも高くない中でコンセンサス(合意)を得ようとすると、かなりプルーブン(実証済み)なデータが求められてしまう。プルーブンなデータというと、現時点か過去のデータしかありません。「5年後にこうなる」という証明はデータではできないので、コンセンサスは非常に得にくい。しかし、実はそれが一番大事なんですよね。

入山氏:おっしゃる通りだと思います。

樋口氏:従って、「こいつの言うことだったら大丈夫だろう」という、かなりの信頼を自分自身が周囲から獲得しないといけないのは事実ですね。

パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社の樋口泰行社長

納得性のある戦略を作る

入山氏:多くの日本企業は、長期の方向性に対する組織全体の納得感が足りないと思いますが、中にはうまく納得感を醸成させている経営者もいますよね。日本電産の永守(重信会長 最高経営責任者=CEO)さんは、その1人だと思います。

永守さんは、将来は“マイドローン”の時代、自家用ドローンの時代が来るとおっしゃっています。誰もが1台、人が乗れるドローンを持って、家からドローンで飛び立って移動するようになる時代が来る。そしてドローンには絶対モーターが入る。日本電産は世界のモーター市場の8割を握っているから、10兆円企業になるのも夢ではないだろうと。

樋口氏:そうですね。孫(正義・ソフトバンクグループ会長兼社長)さんや柳井(正・ファーストリテイリング会長兼社長)さんなど、日本でイケてる会社は創業社長がやっている会社が多い。創業社長だからガバナンスが利いていて、戦略がコンセンサスを得やすい。

 一方、サラリーマン社長だと、先ほど言ったように証明できる範囲でコンセンサスを得ていくしかないという感じになるんです。ですから米国企業のようにCEOにもっと権限があって、もっと給料を上げつつ株主からのプレッシャーも高まってCEOが正しいことをやるようになれば、もっとクイック(迅速)に、アジャイル(柔軟)に戦略を実行できるのではないかと思います。