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パナソニックは、どのようにイノベーションを生み出せる組織へと変わろうとしているのか。パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社の樋口泰行社長と、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授の対談を通じて、「大企業病」を打破するためのヒントを探る。

第3回は、樋口社長が社内のカルチャー変革に最初に着手した理由に入山教授が迫る。人材が組織に“最適化”されていく大企業のカルチャーではイノベーションを起こすことができない。

※本対談「日経ビジネス Raise LIVE」は2019年11月7日にパナソニックCNS社の本社(東京・中央)で開催しました

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第2回 早稲田大学・入山教授「“ゼロイチ”なんてウソだ」

大竹剛(日経ビジネス):樋口さん、入山さんによる「日本企業は『両利きの経営』ができていない」という指摘について、思い当たる節はありますか。

樋口泰行氏(パナソニック コネクティッドソリューションズ社社長、以下、樋口氏):全く先生のおっしゃる通りだなと思いました。ただ、それを本当に実行する難しさは、いろいろありますよね。

入山章栄氏(早稲田大学ビジネススクール教授、以下、入山氏):そうですよね。

樋口氏:特にメーカーだと、トップダウン型のオペレーションになる。そうすると1つの戦略で、どうやって製品を安く作るかということになりがちです。デマンドはどんどん伸びていく、テクノロジーもどんどん新しいものが出てくる。だから、あまり考えなくなっているから、これが大事だよと言われても、まず理解が難しい。

入山氏:ピンとこないですよね。

樋口氏:そうなんです。それがまず1つ。それからもう1つは、先ほど終身雇用とおっしゃいましたけれども、やはり日本企業は一社一社、そのカルチャーに最適化されたような人間が育つ仕組みになっています。社内で最適化されると、社外の人間との親和性が非常に低くなる。そのため、外部のパートナーと親和性高くコラボレーションできる人材が育ちにくい。だから、さらに入山先生が指摘する「知の探索」ができなくなる。

 それから、ビジネスプレッシャーを直に感じている社員の割合が大変に少ない。そのため、何かいいアイデアがあってもお遊びに終わってしまったり、実際にマネタイズするモデルに持っていくだけの胆力がある人間がいなかったり……。今、思いついただけでも3つぐらいありますが、ほかにもたくさんあると思います。

パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社の樋口泰行社長(写真:北山宏一)

製造業のイノベーションを阻害

入山氏:オリックスの宮内(義彦)シニア・チェアマンと、「日経ビジネス」の企画で1年ほど前に対談させていただいたのですが、今の日本企業の課題は何かというと、「製造業の組織の仕組みやビジネスモデルをそのまま引きずっていることだ」とおっしゃるんです。なるほど、と思いました。

 つまり製造業では、歩留まりを高くして、安定的に物を作り、納期をきちんと守ることが大切です。そのために、なるべく同質の人が、ミスなく物を作る、ということが現場では重要になる。すると、当然会社も定時に来て定時に帰ることになるし、多様性は少ない方がいい。新しいことをやるより、確実にやることが重視されるわけです。

 製造業が強かった時代は、それでよかったと思うのですが、今はサービス業が経済の中心で、製造業でも創造性やイノベーションが求められる時代です。日本企業は、この状況に対応できず、過去の製造業の仕組みを引きずっているのではないかとおっしゃっていました。

 そういう意味では、製造業のど真ん中にいたパナソニックが新しい変革をしようとなると、その辺が難しい部分なのではないかと思うのですが、いかがですか。

樋口氏:それはものすごいチャレンジですね。私は米アップルにもいたのですが、アップルは物を作る部分を完全にアウトソースしているので、アップルの中の文化はクリエーティブな文化をつくることに集中すればいい。一方で、パナソニックのような会社は、ミリタリスティック(軍隊的)なオペレーションが必要な部分と、クリエーティブなカルチャーが必要な部分を共存させなくてはなりません。その状況はものすごくチャレンジングです。

 この2つは、お互いなかなか分かり合えません。持ち場、持ち場で必要な文化をそれぞれがつくるんだとはっきり言わないといけませんし、それを本当に両立させていくのはなかなか難しいと肌で感じています。