全3142文字

今、多くの日本の大企業がイノベーションの停滞に直面している。それは、2018年に創業100周年を迎えたパナソニックも例外ではない。パナソニックは、どのようにイノベーションを生み出せる組織へと変わろうとしているのか。同社に12年間勤めた後、外資系企業などを渡り歩き、パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社に社長として戻った樋口泰行氏と、「両利きの経営」の大切さを説く早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授の対談を通じて、「大企業病」を打破するためのヒントを探る。

シリーズ第1回は、樋口氏がパナソニックに「出戻った」ときの第一印象を打ち明ける。樋口氏は「去ったときと戻ってきたときで、『大企業病』のような状況が、ほとんど変わっていなかった」と話す。

関連記事
パナソニックCNS樋口社長が語る「大企業病」の処方箋

※本対談「日経ビジネス Raise LIVE」は2019年11月7日にパナソニックCNS社の本社(東京・中央)で開催しました

次の記事を読む
第2回 早稲田大学・入山教授「“ゼロイチ”なんてウソだ」
2019年11月7日、パナソニック コネクティッドソリューションズ(CNS)社の樋口泰行社長(右)と早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授の対談イベントを開催した(写真:北山宏一、以下同)

大竹 剛(日経ビジネス編集):今日はお忙しい中、「日経ビジネスRaise LIVE」にお集まりいただきまして、ありがとうございます。今日いらした皆さんは、「日経ビジネス」電子版の「Raise」で紹介したパナソニックCNS社の樋口泰行社長のインタビューを読まれて、ここに参加されていると思います。今日は、「パナソニックがどう変わる」というテーマで、どのようにして時代の変化に合わせながらイノベーションを起こし、新たな価値を生み出し、成長し続けていったらいいのかについて、樋口社長と、早稲田大学ビジネススクールの入山教授にお話しいただきたいと思います。

 樋口さんは、パナソニック(当時は松下電器産業)に入社された後、米ハーバード大学でMBA(経営学修士)を取得。その後は、外資系コンサルティング会社やアップルコンピュータ(現アップル)などを経て、ダイエーの社長として同社の再建を託され、日本マイクロソフトの社長、会長を経て、再びパナソニックに入りました。いわゆる「出戻り」とよくいわれます。樋口さんは今、パナソニックCNS社で、この大きな会社をどう変えるのか、日々改革を実践しています。

 入山さんは早稲田大学ビジネススクールの教授で、企業のイノベーションや価値創造などをテーマに、積極的に発言、執筆しています。入山さんは最近でいうと『両利きの経営』という書籍で、まさに、大企業で既存の事業を続けながら、いかに新しい事業を立ち上げ、価値を創造していくか、ということについて解説しています。

 まずは議論のきっかけとして、私から、改めて樋口さんがどのような視点で改革に挑んでいるのかという質問から始めたいと思います。

 樋口さんは、パナソニックに戻ったときの第一印象はどのようなものだったのでしょうか。

樋口泰行(ひぐち・やすゆき)
パナソニック代表取締役 専務執行役員。同社の社内カンパニーであるコネクティッドソリューションズ(CNS)社長。1980年に松下電器産業(現パナソニック)に入社し1991年米ハーバード大学でMBA(経営学修士)を取得。その後、ボストン コンサルティング グループ、アップルコンピュータ(現アップル)などを経て2003年日本ヒューレット・パッカード社長。2005年にダイエー社長として再建を託され2007年にマイクロソフト(現日本マイクロソフト)に転じ社長、会長を経て、2017年4月にパナソニックCNS社社長。2017年6月から現職。

樋口泰行氏(パナソニックCNS社社長、以下、樋口氏):皆さん、こんばんは。まずはパナソニックにお越しいただきまして、ありがとうございます。

 私はパナソニックに12年間勤めて、その12年の中で、会社にお金を出していただいてビジネススクールへ行って、帰ってきて半年で辞めました。ですから、まあ、パナソニックから見れば「裏切り者」という感じです(笑)。

 辞めるとき、いろいろな人から、「なんちゅうことをするんや」と言われましたが、「いや、俺はこんなところ嫌だ」というような形で飛び出しました。そのため、まさかその裏切り者をまた受け入れてくれるとは思いませんでした。

 ただ、パナソニックから離れていた間、私はパナソニックのために何かできることはないかなとずっと思っていて、頼まれたことは全てお受けしようとしていました。例えば研修所でちょっと話をしてほしいとかいう話があったときは、研修所で幹部候補生相手に話をしました。終わったら、研修所の責任者の方が、「いや、樋口さん、よかったわ。前々から早く来てほしかったんだけど、いろいろございましてね」と言って。「え? いろいろって何ですか」と聞くと「いや、1回辞めた人は、なかなか(講師として呼ぼうとしても)許可が下りないから」と、そんな話をしてくださったこともありました。