全3142文字

去る前も戻ってきたときも「大企業病」

 そんな会社だと思っていたのに、「また戻ってきませんか」と言われたものですから、これはもうびっくりした。

 そのころは、マイクロソフトという大変に厳しい会社で10年間も仕事をしていたので、実はもうへとへとになっていて、もうそろそろゆっくりしたいなと思っていたときでした。そんなときに声が掛かったものですから、悩みに悩んだのですが、私のような者でもお役に立てるのであればと考えて、やろうと決意して戻った次第です。

 なかなか戦略をクリアに描けなかったり、それ以前に正しいことを正しく実行できなかったりという状況は、日本企業、特に歴史の長い大きな日本企業に共通していることだと思います。「大企業病」という言葉は古臭いかもしれませんが、そういう状況は私がパナを去る前と戻ってきた今とで、それほど変わっていないという印象を受けました。

 私は日本ヒューレット・パッカード(HP)、ダイエー、日本マイクロソフトで社長をやって、今に至ります。毎回、同じことをやってきています。どの会社でも、「正しいことを正しくやろう」というカルチャーに変わろうということを、最初にやってきました。

 例えて言えば、海の上で小さいボートをこいでいるとき、波が来たら大きく揺れて、「大変だ!」と感じるわけですが、大きな船に乗っていると波がどうなっているのかも、氷山があるかも、よく分かりません。船に穴が開いて沈んでいっているのに、それに気がつかず食堂のいすを並べ替えているといったこともあるわけです。

 私はどの会社でも、まず、そういった状況を正すという、当たり前のことをやってきました。そういう意味では、パナソニックは私が去ったときと戻ったときとでは多少は進化しているのかもしれませんが、そういった部分があるというのが、第一印象でした。

大竹:ありがとうございます。「正しいことを正しくやる」というのは、理屈で考えれば当たり前のことですが、それがなかなかできないのが、いわゆる「大企業病」というものだと思います。樋口さんはこれまでの経験から、まずはやはり、社員のマインドと会社のカルチャーを変えないと、人は正しい行動に出られないものだと考えていますか。

樋口氏:全くその通りだと思います。特に大きな会社の本社、コストセンターにずっといると、自分の給料は天から降ってくるというように思い込んでしまいます。本来、給料は全部、お客様のポケットから出ているわけですが、「天から降ってくる」という感覚がずっと続くと、なかなか、「そうではない」と言われても分からないような状況になってしまうと、すごく感じます。

 考えてみたら、お客様が全ての起点であるというのは、松下幸之助の創業者精神そのものなんですよね。しかし、放っておくと、人間は楽な方へ行ってしまう。だから、売り上げ増や利益増、顧客満足度の向上につながらない内向きな仕事が増えていく。

 久しぶりに戻ってきて、会議のため会議室に入って席に着いたら、「樋口さん、そこじゃありません、座席表によりますとこちらでございます」と言われました。「社内のミーティングで座席表を作っているの?」となりますね。「この座席表を作るのに何分かかった?」と。それで、もう次からやめようと言いました。例えばそういうことですよね。