市場の変革者、続々登場

 価格圧力に耐えられる体力のある企業や、既にここで緻密な販売網や調達網を作り上げている競合に伍(ご)して潤沢に資本を投下できる企業でなければ勝てない。それもまた事実だ。

 とはいえ、インドは新規参入するプレーヤーが変化を起こし得ない市場かというと、必ずしもそうとはいえない。新しいポジションを確保したインド新興企業は確かに存在する。彼らは最初から大企業だったわけではないし、最初からよいポジションにあったわけでもない。

 連載初回でもお話ししたように、インドの消費者は変化している。近年は特に価値観や意識の変化が著しい。これに対応し、新しい消費者にフィットする製品、サービスを開発できれば事業を拡大する余地が生まれる。

 変化を象徴するのが、インターネットとスマートフォン(スマホ)の世界で起きた価格破壊だ。2016年、リライアンス・ジオ・インフォコムという企業が新しい通信キャリアを興し、データ通信価格を従来の10分の1ほどに引き下げた。誰もが気軽にスマートフォンを持ち、データ通信を当たり前のように使える世界が訪れ、その結果、ネットを活用した新しいサービスが相次ぎ台頭、浸透していった。

 経済発展に伴ってミドルクラスが拡大していることも追い風だ。新しいスタイルの消費を始めようとする人々が数多くいる。広い国土と10億人を超える人口、そして多種多様な消費者を内包した国の消費に地殻変動が起きているわけだ。しかもインドは「課題のない産業はない」というくらい、解決すべき問題がいまだ山積している。既存産業に強いプレーヤーが多く存在していても、既存の商品、サービスがいくら強くても、その隙をついて競合の牙城を切り崩す方法はいくらでも見いだせるようになっている。

 テクノロジーを武器に市場を変えた事例は数ある。通信に価格破壊を起こしたリライアンス・ジオにネット通販のFlipkart(フリップカート)、オンラインスーパーを定着させたBig Basket(ビッグバスケット)、そして配車サービスのOla(オラ)といった企業はその代表だ。

 もっとも、市場に変化を起こして成功を収めたのはテクノロジーを前面に押し出した企業ばかりではない。

 例えば航空産業。かつてはAir India(エア・インディア)というナショナルフラッグと、今年に入って経営破綻してしまったJet Airways(ジェット・エアウェイズ)というフルキャリアが国内航空産業の2大勢力として君臨していた。そこに殴り込みをかけたのがIndiGo(インディゴ)という2006年創業の新興の格安航空会社(LCC)だ。5~6年前まで「遅れることが当たり前、オンタイムで着くのは奇跡」といわれたインドの航空業界で定時運航を実現し、あっという間に顧客の信頼を勝ち取った。さらに今ではIndiGoのみならず、SpiceJet(スパイス・ジェット)やGoAir(ゴーエア)といったLCCがインド国内の航空産業で存在感を高めている。

 ビール業界も大きく変わった。かつてはKingfisher(キングフィッシャー)という飲料会社がインドの津々浦々に販路を開拓し、圧倒的なシェアを誇っていた。2015年、これにBira(ビラ)という新興企業が挑んだ。サルの絵をモチーフにした若者にフレンドリーなブランドを開発し、デリーやムンバイ、バンガロールといった大都市部で攻勢をかけた。「ビールといえばキングフィッシャー」というイメージを新興ブランドが覆していく。その動きを個人的に驚きをもって私は見た。彼らは足元でより広範囲な層にアプローチすべく大衆向けのストロングビールやフレーバービールなど、商品のラインアップを拡充して地方都市にも進出している。