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 私が最初にインドの地に足を踏み入れてから20年以上がたつ。この間、世界におけるインドの地位や取り巻く環境は目まぐるしく変わった。インドが変わったというより、世界が様々に変化した結果、インドのポジションがより重要視されるようになったとも言える。

 例えば近年、「一帯一路」構想や米中貿易戦争などが象徴するように、中国が世界的に発言力を高めている。中国が覇権を強めようと動けば動くほど、これと比例するようにインドに対する期待も高まっていくように見える。インドがこの構図を好意的に受け入れているとは必ずしも言えないが、いずれにせよ、インドを中国への対抗軸として見る向きが強まっていることは確かだ。

「リープフロッグ」が起こりやすい環境

 ここ数年の間で注目を集めるようになった産業の「デジタルトランスフォーメーション」の文脈でも、インドは特異なポジションを確立しみつつある。というのも、インドはほぼ全産業で「課題」を抱えているため、技術革新が各段階を飛び越して急速に進む「リープフロッグ(カエル跳び)イノベーション」が起きやすい。また政府は予算が潤沢とは言えず、官民パートナーシップ(PPP)と呼ばれる民間協力の仕組みを積極的に活用している。その機会が既存の大企業だけではなく、スタートアップにも開かれていることもポイントだ。

 こうした背景もあって、インドのスタートアップは着実に成長している。今やユニコーンの数は世界4位の水準にあり、さらに将来のユニコーン候補(ネクストユニコーン)も着実に育ってきている。

 もともとインドには世界の大企業1000社近くが研究開発の拠点を構えている。かつては低コストを魅力にアウトソーシング拠点として機能していたが、その位置づけが変わりつつある。最新のテクノロジーを研究開発する拠点に加えて、「リバースイノベーション」「ジュガールイノベーション」などと呼ばれる戦略の拠点としてインドを活用する企業が増えているのだ。

 リバースイノベーションでは、先進国で使われていた製品・サービスをまずインド国内に持ち込み、新興国仕様の製品に仕立て直し、これをさらに別の先進国に展開させていく事例があちらこちらで見られる。例えば、米ゼネラルエレクトリックがインドで開発した800ドルの心電計や、心臓手術を米国と比べ5分の1の価格に抑えて実施することに成功した病院の事例などがこれに当たる。

 一般的に新興国の企業というと、国内の課題解決を模索してイノベーションを起こし、新しい産業を創ったり、もしくは既存分野の国内シェアを拡大していくイメージがあるかもしれない。ただインドの企業はこれにとどまらない。積極的に海外に触手を伸ばす企業もあれば、起業当初からグローバルマーケットを狙って開発を進めるところも多い。

 大企業で言えばタタ・モーターズによる英国のジャガー・ランドローバーの買収や、マヒンドラ・グループによるイタリアの大手自動車デザイン会社ピニンファリーナの買収が挙げられる。スタートアップで言えば、インド電子決済大手に成長したスタートアップPaytm(ペイティーエム)は日本の決済サービスのPayPay(ペイペイ)にそのテクノロジーを提供し、今年日本市場に参入したインドのOYO(オヨ)ホテルズアンドホームズも積極的な海外展開を進めている。

街角のパパママショップにもPaytmの決済サービスが普及している
インド、日本のみならず中国やイギリス、アメリカ等でもホテルチェーンを展開するOYO