インドのニューノーマルとは

 新型コロナの感染拡大と封鎖措置は、インド社会が抱える様々な課題を顕在化させた。例えば広大な面積と複雑な社会構成を抱えるインドでは、政府が意図する封鎖措置を国の隅々まで浸透させるのが容易ではなかった。貧困層向け支援は国民背番号制である「アダール」というシステムを利用すれば比較的スムーズに実現できるとみられたが、番号が記されたアダールカードを紛失してしまった人が門前払いされるなどの問題が発生した。教育水準に差があるため規律を守れなかったり、理解できなかったりする人がいる一方、都市部の中間層や富裕層の間では、掃除や洗濯といった仕事で移民労働者への依存度合いの高さが改めて浮き彫りになった。

 新型コロナは課題を露わにすると同時に、社会や経済に変化も促している。その一部は今後も定着し、いわゆる「ニューノーマル」として受け入れられていくだろう。

 ではインドのニューノーマルとは何なのか。全容はまだ見えづらいが、これを理解する手がかりはある。新型コロナを背景とする国際的なヒトとモノの移動制限はインドでサプライチェーン問題を引き起こした。政府は今後、より積極的に外資製造業を自国に呼び寄せて産業集積を図るだろう。もともとインドは「メーク・イン・インディア」というスローガンを掲げ、自国の製造業を強化する方針を示していた。その取り組みは加速しそうだ。

 インドの人たちの間では価値観に変化が起きている。ひどい渋滞にはまって過ごす時間の無駄が意識され、健康に対する関心が高まった。在宅勤務が一般的になり、若者やビジネスパーソンにとどまらず多くの人が、仕事と生活の両面でオンラインやデジタルの利便性に気づき始めた。これを背景にデジタル化も一層速いペースで進むとみられる。

 新型コロナの感染拡大を契機に、4000万人以上いるといわれる国内の移民労働者のうち、750万人以上もの人々が帰郷したようだ。さらに、その多くは新型コロナが収束しても、もう都市には戻りたくないと感じている。これが影響し、大都市に近い工業団地や都市部では労働者不足や労働コストの上昇に直面し、機械化や自動化を促進することが避けられなくなるだろう。同時に、大都市に集中してきた経済圏の在り方も変わる可能性がある。中規模都市、小規模都市、そして農村エリアまで巻き込んだ新しいインフラ開発モデルが生まれるかもしれない。

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