キオスクで新型コロナ検査

 厳しい状況ではあるが、インドの官民は様々な取り組みにより困難を乗り越えようとしている。

 新型コロナの感染がインドで明らかになった当初、様々なシナリオに基づく予測数字が出た。最大で3億人が罹患(りかん)するとか、1000万人の重篤患者が出るといったものだ。仮に3億人の感染者が出た場合、その大半が軽症であっても、膨大な数の病床が必要になる。そこで政府は早い段階から病床の確保に乗り出していた。列車を改造し、隔離病棟のようなものに仕立てるといったプロジェクトもある。デリー市政府は空港近くにあるホテルを隔離施設として借り上げるなどの対応を取った。

 その結果、4月の段階で10万床ほどの新型コロナ患者向け病床を確保したとモディ首相は話している。1万人の新型コロナ患者に対し、1500病床が必要だといわれる。集中治療室(ICU)が存在しない県も存在するが、数字上は7000万⼈弱が新型コロナに罹患しても、病床数としては耐えられる状態になっているということだ。

 検査についてはどうか。4月半ば時点で1日当たり2万件を超える検査が行われており、5月半ばには1日10万件の検査ができる態勢に達したと発表されている。ただ基本的に新型コロナ対応は各地域の選ばれた病院が対応することになっており、態勢には限界がある。また従来のPCR検査は時間がかかり、相当数の医療関連従事者が必要とされる。

 莫大な数の検査を実施するためには、これを実施するラボの拡充と、相当数の検査キットが必要だ。キットについては現状では輸入に頼るが、中国製検査キットには精度の問題が出ている。着荷が遅れるといった課題もある。インド国内の主要な研究機関やスタートアップも課題解決に向けた研究を進めてはいるが、すぐに結論が見える話ではなさそうだ。

 一方で、安全な検査体制を拡充し、その数を増やそうとする取り組みはある。たとえば自宅で血液を採取し、検査の結果も自宅で知ることができるサービスを展開するスタートアップは、新型コロナをその枠組みに取り入れ、自宅まで出向いてサンプルを回収する取り組みを始めた。

 Pulse Active Stations Network(パルス・アクティブ・ステーションズ・ネットワーク)というスタートアップの取り組みも非常に興味深い。同社はもともと鉄道や地下鉄の駅、ショッピングモールなどに健康専門のキオスクを設置してきた。ここで自社開発した端末を使い、体重や血圧、体組成など基本的な健康情報を提供している。新型コロナの感染拡大を受けて、彼らは移動式のキオスクで新型コロナの検査サンプルを回収するサービスを始めた。

パルス・アクティブが展開する、新型コロナ検査のサンプルを回収するキオスク
パルス・アクティブが展開する、新型コロナ検査のサンプルを回収するキオスク
キオスクの搬入風景
キオスクの搬入風景

 インドでは一部で防護服などが不足し、医療従事者の安全が脅かされている。一方で、パルス・アクティブのキオスクは、サンプルを回収する人を保護し、自動での消毒を実施できる機能を備えている。足元ではインドの地方州政府とともに実証実験を展開している。

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