農産品のサプライチェーンでも革新的な動き

 封鎖を背景にしたサプライチェーン革新の動きは、BtoC(消費者向け)だけでなく、BtoB(事業者向け)にも及んでいる。2015年創業のスタートアップ,Ninjacart(ニンジャカート)が始めた新しいサービスもその一つだ。

 もともと彼らは連携した農家から買い上げた野菜を、都市部の八百屋やレストランなどに直接卸すビジネスを展開していた。封鎖が始まると、複数の一般消費者を束ねるボランティア「Ninja(ニンジャ)」を募集し、彼らを通じて消費者に直接、野菜を提供するサービスを始めた。ボランティアに近隣の消費者を束ねてもらうことで、疑似的な八百屋を開業し、そのエリアに安定して生鮮食品を提供できるようにしたのだ。ここでも注目すべきはサービス展開の速さで、封鎖が発表された翌日には新しいサービスを立ち上げている。検問などで、四輪車での配送がしづらいと見るや配送手段を一部バイクに切り替えるなど対応は柔軟だ。

 封鎖を機に、食品のサプライチェーンの強靭(きょうじん)性を高めようとする試みもある。アグリテック(最新の技術を活用して農業に革新をもたらそうとする試み)に長年携わっているインドのファンド「バーラット・イノベーションファンド」のパートナー、Hemendra Mathur(ヘメンドラ・マトゥール)氏は、封鎖下でも食品・農産品のサプライチェーンを維持、効率化することを目的とする起業家ネットワークを組織した。ヘメンドラ氏は「サプライチェーンを刷新することは難しいが、成功すればインドの農業に大きなチャンスをもたらす」と語る。インドの農産物に対する欧州やアジア諸国からの引き合いは増えているという。各国のバイヤーとインドの農家とをうまくつなぐことができれば、流通の拡大だけでなく、輸出の拡大も実現できる。

 全体で見れば、インドの多くの産業や市場は効率的に組織されているとは言い難く、個人あるいは零細企業の集まりにすぎないことが多い。農業はその最たるものの一つであり、零細農家が多くを占めている。サプライチェーンは脆弱で、一部でも寸断されれば多くの農家が痛手を被る。果物や野菜など長期保管が効かない作物は、市場に出荷ができなければ廃棄せざるを得ない。サプライチェーンが機能しないばかりにせっかくの作物を廃棄せざるを得なかったというニュースは今も紙面をにぎわせる。ただその光景は、新型コロナの登場と封鎖というショックを機に、今後大きく変わるかもしれない。インドの人々は転んでもただでは起きない。自分たちのミッションと役割を認識し、課題を見極めた上で、動きながら解決していく。そこから学べるところは多そうだ。

この記事はシリーズ「目覚める巨象、インドの変貌」に収容されています。WATCHすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。