伝統的なパパママストアが生まれ変わる

 新型コロナに素早く対応しているのは政府ばかりではない。この国で急成長しているスタートアップも、持ち前のスピード感を発揮して封鎖という非日常に対応している。まさに火事場のばか力というものを見せつけられている思いだ。

 自由に買い物ができない封鎖下の生活で頼りにされているのがデリバリーサービスだ。Bigbasket(ビッグバスケット)やGrofers(グローファーズ)など、必需品をオンラインで販売する大手ネットスーパーや、小売店舗から様々なものを購入して自宅まで運んでくれるDunzo(ドゥンゾー)のようなデリバリーサービスの利用が急激に伸びている。当初は配達員の不足などにより注文がうまくできなかったりもしたが、今は通常の水準に戻りつつある。特に「なんでも運ぶ」ドゥンゾーは肉や魚、野菜から日用品、さらには薬局にある大衆薬のデリバリーまで、多方面で活躍している。

 デリバリーサービスを手掛けるスタートアップは伝統的なパパママストア「キラナ」に注目し、短期間で新しいサービスを立ち上げている。

 まずはキラナについて説明しよう。生鮮品や日用品を販売する伝統的な小規模店舗で、インドの人々にとってなじみ深い存在だ。ただ筆者がインドで仕事を始めた2000年代中ごろになると、インドでもスーパーマーケットやハイパーマーケットなどチェーンストア、大型小売りが台頭し、キラナを脅かし始めた。

伝統的な小売店キラナに商品が搬入されている。
伝統的な小売店キラナに商品が搬入されている。

 徐々に存在感を失いつつあったキラナが、封鎖という非日常の世界で再び脚光を浴びつつある。インドのスーパーマーケットはどこにでもあるわけではない。一方でキラナはどこでも目にすることができる。筆者の近所にも、もちろんある。これまでは何でもそろうスーパーに時々買い物に行き、必要なものを購入していた。だが外出もままならない今は、近所の、間口1メートルほどの小さなキラナが頼りだ。店主も厳しい状況の中、あちらこちらの問屋に掛け合い、より多くの品を仕入れようと努力している。

 デリーなどの大都市では、フードデリバリーサービスを手掛けるZomato(ゾマト)やSwiggy(スウィギー)がキラナに注目し、新しいサービスを開始した。両社はこれまでレストランの食事を配達していたが、4月からはキラナの生活必需品を自宅まで届けるサービスを始めた。利用者はネットでキラナの商品を注文できる。つまり、地元密着の小さな店が、ネットのプラットフォームを介して消費者とつながり始めたのだ。

 中規模の都市でキラナの商品仕入れをサポートするスタートアップ、ShopKirana(ショップキラナ)は、消費者が近所のキラナの在庫を確認でき、欲しいものがあれば注文できる「Zaruri(ザルリ)」というサービスを立ち上げた。驚くべきはサービスを立ち上げるのに要した時間だ。ネットスーパーの品切れが続く状況を背景に発案され、たった3日でアプリを開発。即座にローンチされたという。「そのスピードと技術力には目を見張るものがある」。ショップキラナへ投資しているインキュベイトファンドのインド代表、村上矢氏はこう驚く。

 新型コロナの感染拡大と、それに続く封鎖は、インドの消費世界を大きく変えるかもしれない。インドの人々は一つのブランドに愛着を感じると、他のブランドには容易にはスイッチしないと言われる。一方、封鎖下の生活を支えるキラナの品ぞろえは、スーパーと比べると限られている。今は「あれがいいい、これがいいと」とブランドを選ぶ余裕はなく、とにかく必要なものを入手しなければならない。筆者もCatch(キャッチ)というブランドのソーダ水を好んで購入していたが、いつでも買える状況ではなくなった今は少なくとも3つ以上のブランドに手を出したりしている。メーカーなど企業からすれば、新しい消費者を獲得する絶好の機会が訪れているとも言える。

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