これまでの連載で、テクノロジーを活用した新しいサービスや産業がインドで相次ぎ登場していることはお分かりいただけたかと思う。スタートアップがこれまでにないサービスや製品を開発して新しい産業をつくる一方、大手グローバル企業はここに研究開発拠点を設置して社会の課題に取り組み、そこで培った技術やノウハウを本国に還流させ、優秀なインド人材も獲得してきた。
1980年代からグローバル企業の間では研究開発センターをインドに設置する動きが続いた。独ボッシュや米ゼネラル・エレクトリックといった製造業は比較的早くからインドを研究開発の拠点として活用している。昨年には米アマゾン・ドット・コムが1万5000人を収容できる世界最大のオフィスをハイデラバードに開設。米グーグルも昨年AI(人工知能)の研究拠点をバンガロールに設立している。
大きなうねりになっているとまでは言えないものの、日本勢もインドで新たなチャレンジに乗り出している。例えば2018年、メルカリはインドで技術やサービスのアイデアを競う「ハッカソン」を開催し、人材採用を行ったという。さらに今年には神戸市がインドIT人材の獲得支援に乗り出すという報道もあった。
大手企業のなかで積極的にインド展開を進めているのがNECだ。同社はもともとインドをオフショア拠点と見てきたが、後に市場と捉え直しビジネスを広げている。

NECはインドの国民識別番号制度であるAadhaar(アドハー)に指紋や顔といったバイオメトリクス認証技術を提供したり、アーメダバードやグルガオンといった大都市や、フブリなどの中規模都市向けに交通システムをはじめとしたスマートシティープロジェクトを展開したりしている。
2018年7月にはインドに研究所(NEC Laboratories India)を開設した。所長を務める池谷彰彦氏はシンガポールの研究所で勤務経験があり、ここから公共交通ソリューションをインドネシアに展開しようと取り組んでいたという。ただ先進国シンガポールと新興国インドネシアとでは事業を進めるための条件が大きく違っていた。「新興国の課題を解決するには、新興国発でソリューションをつくらないといけない」と池谷所長は振り返る。
2018年、インド研究所の立ち上げに合わせてムンバイに赴任した池谷所長は、ここを技術を起点にサービスや製品を開発するのではなく、課題を起点にして新しい事業を模索する場所と位置付け、新しいプロジェクトを続々と立ち上げていった。
最初に取り組んだのは物流プロジェクトだ。インドでは物流コストが高く効率も悪い。例えばコンテナトラックが港に入る際は、様々なチェックを経る必要がある。これには時間がかかり、ただ港に入るためだけに一晩過ごすことを強いられるドライバーもいるそうだ。インド人たちも効率が悪いこと、改善余地があることは認めつつも、どこに課題があってそれをどう解決すべきか分かっていないケースが多い。そこでNECはインド国内に流通する全コンテナの95%を追跡できるシステムを開発。物流会社などに位置情報サービスとして提供した。今後はこのデータを分析し、課題を可視化して解決する計画だ。
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