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 2000年代以降、スマートフォンを活用したライドシェア・配車サービスが世界的に支持を受け、各地で有力なプレーヤーが登場した。町中の二輪車や自動車をIT(情報技術)で誘導し、顧客の移動手段に仕立てる。そのサービスは進化を続けており、インドでは人だけでなくモノまで低価格かつ短時間で運ぶサービスが拡大している。代表的なプレーヤーが2015年創業のDunzo(ドゥンゾー)だ。そこで今回は、ドゥンゾーとその創業者を通して、インド・スタートアップの市場に対する見方や経営に対する考え方に迫ってみよう。

 ドゥンゾーはパートナーである二輪車のドライバーを介して、顧客が必要とする様々な商品を短時間で手元に届けるデリバリーサービスを展開している。同社のスマホアプリを通じて購入できる商品は、生鮮食品を含む食品・飲料、飲食店の料理、スーパーや商店の日用品、ペットフード、ギフト製品、そして薬店の医薬品まで、多岐にわたる。

 消費者同士のモノのやり取り、つまり「自宅から会社にお弁当を届ける」とか「会社から取引先に書類を届ける」といった需要にも応える。競合他社はサービスを利用するための最低注文金額を設定しているが、ドゥンゾーにはこうした制約がなく、あらゆるモノを注文から1時間以内に配達できるのが強みだ。

ドゥンゾーのドライバーは専用のヘルメットとユニホームを着用し、利用者が一目で分かるようにしている

 住居やオフィスから比較的近い距離にコンビニエンスストアやスーパーマーケットなどがある日本と異なり、インドでは都市部でも小売り網が張り巡らされているとは言い難い。そのためデリバリーに対する需要は強く、ドゥンゾーが実現した24時間365日、何でも1時間以内に運ぶサービスは顧客の支持を集めた。創業から4年で従業員は500人以上に、デリバリーパートナーは3万人を超えた。カバーしているエリアは拠点とするインド南部の都市ベンガルール(旧称バンガロール)のみならず、デリー、グルガオン、ムンバイなど合計8都市に拡大している。

 ドゥンゾーを創業したKabeer(カビール)CEO(最高経営責任者)はインドのシリアルアントレプレナー(連続起業家)として知られる。インドの通信大手Bharti Airtel(バルティ・エアテル)を経て、2010年にフューチャーフォン(従来型携帯電話)のSMS(ショートメッセージサービス)を活用したサービスを展開するスタートアップ、Hopper(ホッパー)を創業。後に同社をユニコーンとして知られるメッセンジャーアプリのHike(ハイク)に売却し、新たにドゥンゾーを立ち上げた。

ドゥンゾー創業者のカビール氏。シリアルアントレプレナー(連続起業家)として知られる。インタビューでは後述する壮大な「1分デリバリー構想」を熱心に語ってくれた

 ホッパーの売却後、カビール氏はインドの様々な都市や街を旅して回った。そこで「インドでは都市部ですら住むことは難しい」と改めて気づかされたという。例えば首都デリー近郊で大手企業の拠点が集積する都市グルガオンでは、時間と場所を問わず慢性的に渋滞が発生している。しかも駐車場はたいてい満車状態だ。何とかたどり着いた商業施設で商品を購入するのも一筋縄ではいかない。お気に入りの洗剤や常備薬の在庫切れは珍しくない。店舗は商品がないことを悪いこととは考えていないようだ。運よく欲しい商品を買い物かごに放り込むことに成功しても、今度は業務に不慣れな店舗スタッフに当たってしまい、レジで決済するまで30分以上も待たされる。

 ここインドでは、「どこかに移動して何かを買う」というありふれた行為にすら多大なストレスが伴うのが実情だ。一方で、2010年代中盤からデジタルの世界ではスマホが市場を席巻し、アプリを通して様々なサービスを提供できる環境が整ってきていた。このインフラを活用すれば消費者の「買い物ストレスをなくすことができる」と見たカビール氏はドゥンゾーを立ち上げ、まずメッセンジャーアプリ「WhatsApp(ワッツアップ)」を活用したデリバリーサービスを開始。後に独自のアプリを開発し、カバーエリアと顧客基盤を拡大させていく。

インド・スタートアップ成長の要諦、その1「サバイブすること」

 ドゥンゾーがターゲットとしている顧客は都市部の財布に余裕のある消費者で、その数は足元で2000万~2500万人ほどとみられる。13億人超というインド全体の人口と比較すると少なく感じるが、急激な都市化や消費の近代化を背景に顧客層は日ごとに厚みを増すだろう。だから利便性の高いサービスさえ展開できれば、事業は容易に拡大すると見る向きはあるかもしれない。

 だが現実は違う。インドの消費者の価格に対する意識は先進国と比べ非常に厳しい。コストを抑えるのは当然、時には利益を犠牲にしてでも低価格を実現しなければ受け入れてもらえない。市場の構造も複雑で、左うちわの経営を続けていては途端に淘汰されてしまう。