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押井:じつは「スカイ・クロラ」(08)はかなりうまくいったんだよ。だけど、うまくいきすぎて誰にも気がついてもらえなかった(笑)。僕は原作を微妙なところだけいじくっていて、その微妙にいじくったところに気がつけばすぐにわかる仕掛けになってる。でもその辺は語られたことがない。

 「ビューティフル・ドリーマー」は記号的にわかりやすく作ったから、語ってくれる人間は山ほどいたし、「機動警察パトレイバー2 the Movie」(93)(以下「パト2」)に至っては「みんな大好き『パト2』」だから。ああいう政治的なやつはわかりやすい。でも政治的なメッセージじゃない部分とかになってくると見えにくくなってくるし、読み解く人間も極端に減る。

 それでも、理想はそれなんです。真面目にエンタメをやればエンタメになるかというと、僕に言わせるとそんなことはない。客をなめるなと。

秘められた哲学が、格をもたらす

監督にとって「映画に“もう1つ”のメッセージを込めることは必須なんですね。

押井:映画って不思議なんだけど、秘められた哲学ってやつがないと「格」というものが出てこないんだよね。スカスカのエンタメになっちゃう。「いろんなことをやってるんだけど全然面白くない、1回見たらおしまい」という最初の「キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー」がまさにそうだよ。デジタルはがんばった、という以外に何も言うことがない。おまけにガジェットが全然つまらなかったから。

「ウィンター・ソルジャー」のガジェットはどうでしたか?

押井:最大のガジェットである空中空母みたいなやつが全然ダメだったね。VTOL機みたいなやつ(クインジェット)はそこそこよかったけど。

 あの空中空母は、言ってみればアメリカの機動部隊、タスクフォースそのもので、あれほどわかりやすいものはないからあえてそれを選んだんだろうね。わけのわからない要塞を浮かべるよりは、原子力空母を浮かべたほうがよっぽどわかりやすいから。ビジュアル的には残念ながら飛ぶように見えないけど(笑)、それはいいんですよ。だってメタファーなんだから、そこは目をつぶろうと。

ガジェットにも裏の意味があるということですか。

押井:ガジェットだって立派なメタファーなんですよ。なぜあえて、ジョージ・ワシントンっぽい原子力空母みたいなものにしたのかという話。お腹にいっぱいわけわかんない砲塔つけてるけど。あんなところで撃ちまくったらテロリストを殺すだけじゃなくて街が崩壊するじゃん(笑)。現に目標に赤い点をつけていったら真っ赤になった……真っ赤にした、というのも悪意が入ってるんだよね。あからさまにやってるんだから。

 ガジェットだけじゃないよ。いろいろ挙げれば、裏読みできる要素はきりなくある。キャプテン・アメリカは、同僚のブラック・ウィドウ(キャストはスカーレット・ヨハンソン)に、同じS.H.I.E.L.Dに勤めているお姉ちゃん(シャロン・カーター、キャストはエミリー・ヴァンキャンプ)を「あの子いいんじゃない?」と勧められてたけど、じつはそれが自分の監視者だった、とかね。

 ブラック・ウィドウというお姉ちゃん自体も非常に微妙なキャラクターだよね。査問されて「アンタ、元ソ連のスパイだったじゃん」と。彼女自身がアベンジャーズの中で微妙な立ち位置にいる。絶えずそういう危険をはらんだ女だよね。続編の「シビル・ウォー」でも最初アイアンマンについてたのに、途中でキャプテン・アメリカに鞍替えした。そういう意味では非常に便利に使われているキャラクターでもある。脚本家にとっては非常に便利な「ジョーカー」なんだよね。女だからどこでも出せるし、みんなガードが下がる。アイアンマンだってどこかしら彼女には甘いんだよね。

アニメだからこそ、重層的に語りやすい

押井:日本で同じようなことは多分できない。アメリカ映画の強さというのは、プロデューサーの権限の強さとか、そういう構造的なものからして成立するんだよ。

 だけど日本映画でも、エンターテインメント作品で、歴史性を持ったテーマを語ったりとか、政治性や哲学を混ぜたりとかいうことは不可能じゃない。それが不可能だったら僕の映画はほとんどできてない。

押井監督の映画は、常に寓意に満ちているように見えます。

押井:僕が絶えず追求してきたテーマがそれなんですよ。映画は重層的に作るものであって、表面上のストーリーとは別のストーリーを語れるんです。表面に出てこない「キャラクターの裏側」を描けるんであって、ありとあらゆるものをメタファーに置き換えることが可能なんだよ。

 特にアニメーションは記号だからそれがやりやすい。レイアウトまで全部指定できるし、芝居だって全部コントロールできる。実写映画は監督だけじゃ不可能だから、いろんな人間が結託しなきゃ難しい。やろうとした人もいるみたいというか、僕も大作ではないけどやってみたこともある。大作じゃなければ何やったっていいんですよ。

そんな(笑)。