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キャプテン・アメリカと「アメリカの理想」

押井:姿勢を正して続きを見てみたら、やはりその通りだった。冷戦を再現してみせたというか、冷戦期のテーマを現代のアメリカでぶち上げてた。でも戦う相手はソ連とは言ってないんだよ。S.H.I.E.L.Dが戦おうとしてる相手はテロリストなんだよね。

市井に潜むテロリストを先制攻撃しよう、というのがレッドフォード、じゃなくてS.H.I.E.L.Dの作戦でした。

押井:「(テロリストは)先制攻撃しよう」っていうのはブッシュの親父(ジョージ・H・W・ブッシュ/第41代アメリカ大統領)のときから始めて、ブッシュのバカ息子(ジョージ・W・ブッシュ/第43代アメリカ大統領)が徹底的にやった。その思想を極限まで推し進めるとどうなるかというと、巨大な空飛ぶ空母(ヘリキャリア)から、巨大な機関砲でテロリストを殲滅するんだと。そのためのソフトウェアも作っちゃった。それにアイパッチのオヤジ(役名ニック・フューリー、S.H.I.E.L.D長官)は「これやばくない?」って疑問を抱くわけだよね。そしてキャプテン・アメリカは、この先制攻撃には真っ向から反対する。

なぜ反対するんでしょうか。

押井:キャプテン・アメリカというのは「アメリカの理想」を信じてるから。「国内に敵を作っちゃダメだ。仮にいたとしても先制攻撃しちゃいかん。それをやったらソ連のやったことと一緒だろう」ということなんだよ。ムスリムだろうが白人のインテリゲンチャだろうが、怪しい奴はみんな撃ち殺せ、とやっちゃったら大粛清(=1930年代にソ連が行った大規模な政治弾圧)と同じで、これの極限が現在のアメリカがやっている反テロ戦争のことだよ。

なるほど。

押井:それを阻止する物語、というのが「ウィンター・ソルジャー」であって、これは冷戦期から今日にかけてのアメリカの姿そのものなわけだ。

手段を選ばずテロリストを食い止めようとするアメリカと、それをやっちゃったらかつてのソ連と同じことになってしまうからダメだ、というアメリカの理想。そういう現在アメリカ国内で生じている構図そのものだと。

押井:この期に及んで、というか逆に言えばいまだからこそとも言えるよね。アメリカ国内はいま格差が広がっててとてもやばい。そんな中、どうやって民意を統一するか。それに絶えず一役買ってきたのがハリウッド映画なわけだ。ハリウッドというのはそういう社会的使命を持っている。

 もちろん製作者たちもそういう意識がある。最近は中国に買い占められてハリウッドの地位も危ういんだけど、いま「これ以上中国に買い占めさせてはならん」と巻き返そうとしてるからね。国にとって重要な企業は外国からの投資を受けてはならない、という法律があるんだよ。それを一部修正してハリウッドを守ろうとしている。

ハリウッドにも中国マネーが進出していますね。

押井:すでに配給会社の半分近くは中国に買収されてるし、最近の映画を見ると、かっこいい中国人があふれかえってる。しかもみんな「いい人」の役。サー(リドリー・スコット)の「オデッセイ」(15)もそう。火星に置き去りにされたマット・デイモン(役名はマーク・ワトニー)を助ける話だけど、最後にロケットを貸してくれたのが中国だからね。サーの映画といえどもチャイナマネーが入ってるわけで、そのことはエンディングを注意深く見ればすぐわかる。あきらかに中国名の企業が出てくるからね。それぐらいハリウッド映画には中国が入り込んでる。

 そんな状況だからこそなのかは知らないけど、マーベルというのは確かに面白い会社だよ。「アベンジャーズ」というシリーズのポリシーでもあるんだけど、あのアベンジャーズというヒーロー軍団自体が「アメリカ軍」の暗喩だからね。勝手に国境をバンバン越えるしさ。

ははは、なるほど(笑)。

押井:ご丁寧にも、「ウィンター・ソルジャー」の続編である「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」(16)は、アベンジャーズの“暴走”をなんとかしようという映画になっている。いわば内紛の話で、いろんな国から苦情が来てるからアベンジャーズを国連の管理下に置こうとするわけ。「勝手に国境を越えてドンパチ始めるし、なんとかしてくれ」って。それはまさに米軍のことだよね。

うーむ、なるほど。そんな目でマーベルの映画を鑑賞する人がいるとは。