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押井:それが、戦争の勃発で何もかも失う、基本的にはそういう構造を持った映画。その話のところどころに、エスカレートしていく軍事紛争、軍事衝突のエピソードがあって、なんとかそれを阻止したいとなぜか日本の総理大臣が頑張るっていう話なんだよ。「日本の総理大臣が頑張ったってピクリともしないだろ」って、いまなら思うんだけど。

小学生にそんなこと言われたら辛すぎますね(笑)。

押井:リアルにやりたくても、アメリカ大統領やクレムリンの書記長を出すわけにはいかないわけだ。宇宙人と戦う「宇宙大戦争」だったら国連が舞台になってもいいんだけどさ。割とその辺のリアリズムっていうか、シブいところを狙ってたみたいだから、日本の国政レベルを超える動きというのは具体的には描かれないんだよね。情報としては入ってくるけど。

戦争のディティールをぼかしまくる

押井:一方でこの映画、なぜか日本以外の国家の実名は出てこないんですよ。ソ連、アメリカっていうんじゃなくて。

「連邦国」と「同盟軍」ですね。それ以外のトルコだの中国だのは実名なんですけどね。

押井:「連邦」と「同盟」が東西陣営だっていうのはあからさまに分かるんだけどね。子どもだった僕でも分かるのに、なぜ「アメリカ」「ソ連」って言わないのか。何にどう配慮したのかよく分からないんだけど。マンガの世界では普通にやってんのに、映画だとなぜダメなの? っていうさ。

近作だと「空母いぶき」(19年公開)もそうでした。原作マンガでは「中国」なのに、映画では中国とは言っていません。

押井:子ども心にも、冷戦というものがあってアメリカとソ連が敵対しててっていうのは知ってたよ。東の方に中国もあって、中国とソ連は必ずしも一枚岩じゃない、とかそういうようなことまでは知らなかったけど。東西冷戦って言葉はあったし、なぜ実名がないのかね。当時、それを慮る空気があったとは思えない。

 兵器も実在の兵器じゃないんですよ。それが東宝特撮である所以なのか、むしろ本物を出すことを回避したのか、その辺もよくわかんない。だけどどう見てもこれはMiG-21だろうっていう戦闘機が(笑)。

字幕で「モク」って呼ばれてたのがミグをモデルにした戦闘機みたいですね(笑)。

押井:「MiG-21じゃん」と思った記憶が正しいとすれば、間違いなくデルタ翼だったんだよね。ピトー管(※速度計測器)の位置がちがったような気がする。当時から、割とディテールにうるさいガキだったので。

当時から(笑)。

押井:ミグくらい子どもだって知ってるぞって。実は当時のマンガの世界で、ミリタリーは一大勢力だったんだよね。

第二次世界大戦の戦記マンガですか?

押井:大戦中の戦記マンガがメインではあったけれども、かたっぽでSFに足を突っ込んでいるような戦記モノ。大和級が2~3隻出てきたりとか、ゼロ戦がジェットになって飛びまわってたりとか。そういう類いが半分くらいだった。全部が「紫電改のタカ」(ちばてつや)じゃないんですよ。未来モノはそんなに多くなかったけど、与太話が多かったよね。大和の三連装砲を潜水艦に積んだやつが大暴れとかね。「これ、浮かねえだろ」って(笑)。撃った瞬間に横転するに決まってんじゃん。

米ソが戦った、みたいなマンガもあったんですか?

押井:あったような気がするけど覚えてないなあ。基本的には大和、ゼロ戦の世界で、未来戦ってのはかなりマイナーだったから。

 そういうマンガ雑誌で特集やってたから、みんな兵器に関する知識を持ってた。兵器のディテールに関しては、当時のガキはうるさかったからね。隼の一型だ、二型だ、とか。ゼロ戦の二一型だ、五二型だとか。特撮映画だからって、小学生を舐めんなよって気分はあったわけだよね。

あははは。

押井:「世界大戦争」も割とリアルだった。ICBM(※大陸間弾道弾)のシーンなんてかなりよかった気がする。発射シーンとかね。そういう特撮的な、技術的な評価ってのは別として、ドラマ的に言うといちばん有名な最後の晩餐のシーンなんですよ。

ではそのシーンの話は次回じっくりうかがいたいと思います。

(聞き手・構成:野田 真外)