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冷戦時代のタイムカプセルを開こう

「世界大戦争」(アマゾンの紹介ページはこちら

押井:僕は51年生まれだから、戦後っていっても覚えているのは60年前後からになっちゃうんですよ。当時は小学生だから、東宝の特撮映画くらいしか観てないわけ。

「世界大戦争」は1961年の映画です。

押井:確かキューバ危機のあたりじゃなかったかな。

キューバ危機は62年ですね。10月から11月にかけて……。

押井:キューバ危機自体は全然記憶にないし、朝鮮戦争ももちろん記憶にない。でも「冷戦」ということに関しては、小学生といえどもみんな知っていた。キューバ危機は記憶になくても、ケネディが暗殺されたことは覚えているから。あれは確か、衛星中継放送のテスト放映の第一弾だった記憶がある。いきなりそれ(ケネディの暗殺映像)が入ってきて、そういうような時代だったよね。

小学生だった押井少年は、どこからそういう知識を得るんですか?

押井:当時は「冷戦」という言葉だったかどうかはちょっと記憶が定かじゃないんだけど、最初はマンガだったと思う。映画以前にマンガでさんざん読んでいたはずなんですよ。だけど決定的に冷戦を描いたというか、トラウマっぽく記憶に残ったのはこの映画じゃないかな。

 当時は東宝の特撮と言えば怪獣モノで、その延長線上で「世界大戦争」も観に行ったと思う。もちろん怪獣は出てこない映画で、それは当然出てこないと知ってて観てるんだけど(笑)、戦争映画だと思って観に行ったら、その「戦争映画」という言い方も正しくないっていうか。

特撮を駆使した戦争のシーンはそれなりに多くありますが、テーマ的には戦争を描くことが目的の映画ではないですね。

押井:でも「世界大戦争」は小学生レベルでも話題にはなっていたんだよ。「なんか、すげえらしいぞ」って。

そうなんですか。

押井:あくまで小学生だった自分の、印象に残っている当時のこの映画の記憶をたどると、38度線で軍事衝突があって、戦術核が使われた。次が北極上空だったかなあ。いずれにせよ「戦術核」という言葉はそのときに覚えた。「戦術核って何だ? 原子爆弾とどうちがうんだ?」「戦闘機の空対空ミサイルの弾頭に付いているらしい」っていう。戦闘機の空対空ミサイルという知識は、小学生といえどもあった。マンガでさんざん読んでるから。ただ「戦術核弾頭」というのは知らなかった。38度線で衝突があると、なぜ世界戦争になるのかということも理解できなかった。

その辺はさすがに小学生ですね。

映画というのはしょせん「記憶の中のモノ」(笑)

押井:この映画、子ども時代に観たときの印象と、後で見直した記憶とゴッチャになっているし、記憶違いもいっぱいあった(笑)。人と話す度に何度も「いや、それは違う」とか「そんなシーンはなかった」とか言われた。

(笑)。

押井:いろいろそういうことになるのが映画なんだけどね。だからといって、いちいち調べ直すことに意味はないと思ってる。映画というのはしょせん記憶だから、事実関係を争ったってしょうがない。「あのときの自分は確かにそう観たんだ」って言い張るのが正しい観方だと思うよ。

見たいように見ればいいと(笑)。うわー。

押井:この映画に関してはいろんな人間と話した。特にシンちゃん(映画監督の樋口真嗣)とか、映画関係者系。逆に映画関係者以外とは「語りづらい」というか、あんまり興味を持ってもらえないんだよ。「昔、東宝で作った冷戦時代の世界大戦の映画なんだけど」「あっ、そう」で終わっちゃう(笑)。でもそういう人たちにこそ、むしろ観てほしい。

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★以下、本連載の性質上、大量のネタバレが含まれます。ご注意ください★

押井:今観るといろいろツッコミどころはあるんだろうけど、なかなかユニークな映画です。要するに「戦争」とタイトルに入れつつ、「軍人たちの映画」になってないんですよ。軍人とか政治家とかは要所要所に出てくるんだけど、主役はいわゆる市井の一市民……フランキー堺なんだよね。