押井:だけどそんなの全部に付き合っていられない。「スカイ・クロラ」の場合は主管が日テレで力が一番強かったから、言い出しっぺはバンダイだったにもかかわらずバンダイはほとんど何もできなかった。DVDすら出せなかった。
DVDはバップでしたよね。
押井:3社か4社でMG(ミニマムギャランティ/商品化するときに売り上げとは関係なく必ず支払う最低保証金額)の提案をさせて、一番高いところに決めたわけだ。それで、バンダイは一番安かった(笑)。
あの当時はMGバブルみたいなもので、MGでほぼ予算が充当できてたからね。MGで商品化の権利を売っちゃった時点で予算は回収し終わってるわけ。シンちゃん(樋口真嗣)の「ローレライ」(2005)とか「日本沈没」(2006)なんかもそうだよね。MGで制作予算はほぼ回収。それはDVDバブルがあったからだけど。「スカイ・クロラ」はDVDバブルが弾ける直前か直後ぐらいだったんで、実は製作委員会の企業の中でバップだけは払った金額を回収できてないんだよね……という内輪の話はいいんだけど(笑)。
プログラムピクチャー化した角川映画
押井:僕は角川映画は、初期の大作と大藪春彦ものは全部観てると思う。大藪作品は大好きだったから。松田優作は銃との相性が良かったんだよね。日本映画でこれほど銃が似合うヤツがいるかというレベルだったからさ。あとはやっぱり単純に面白かった。松田優作の暴走ぶりが。本当に「野獣死すべし」(1980)なんて優作映画だもんね。大藪春彦の(映画化の)頃というのは角川×松田優作の最後の徒花だったんじゃないの。当初の勢いはなくなりつつあった気がするけど。「蘇える金狼」(1979)はわりと好きなんだけど「野獣死すべし」はあきらかにたがが外れてたね。
角川のアニメ作品は観てないんですか?「幻魔大戦」(1983)とか。
押井:「幻魔大戦」は観たよ。「カムイの剣」(1985)も観た。「少年ケニヤ」(1984)は観てないなあ。
「火の鳥 鳳凰編」(1986)はどうですか。
押井:「火の鳥」は観たような気がするな。やっぱり角川のアニメ映画で記憶に残ってるのは「幻魔大戦」と「カムイの剣」かな。一応、両方映画館で観たはず。あとはたぶんビデオだったりテレビだったりじゃなかったかな。それだって全部角川の原作だからね。「カムイの剣」は確か原作も読んだ。矢野徹じゃなかったかな。
じゃあそれなりに押さえてはいるんですね。
押井:だけどあとはあまり覚えてないなあ。角川映画自体が僕の趣味じゃなかったことは確かだね。「犬神家の一族」はもちろん観に行ったけどさ。もしかしたらあれが一番かなあ。角川映画の中では一番完成度が高くて、とりあえず映画としての格があったという意味ではやっぱり「犬神家の一族」が最高なんじゃないかね。キャストもそろってたし、監督の力量もあったし、美術やら何やらあらゆる意味で完成度が一番高かったという気がする。あのおばさんたちがすごかったよね、草笛光子とか。
はいはい。
押井:あと角川映画は途中から作品が結構小ぶりになっていったんだよね。そういう路線も片方にありつつということだったと思うんだ。大作ばかりだとコケたときにダメージがデカいからね。三人娘(薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子)で手堅く回しながら大作を狙う。途中からはプログラムピクチャー化しようとしてたんじゃないかな。
80年代はそんな感じがありましたね。
押井:「復活の日」(1980)を契機に、大作主義から転換しようとしたんだよ。だいたい大作が出てくるのは映画会社の「頭」と「終わり」なんだ。映画会社は最後の断末魔のときには必ず一発勝負で大作をやる。角川映画だとそれが「天と地と」(1990)。カナダで大騎馬軍団を撮った。
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