押井:そうそう、健さんはゴルゴ13をやってるから、アサルトライフル経験者なんだよね。でも健さんがM16を構えてる姿もね、ガタイがいいからまるっきり合わないということはないけど、やっぱり違和感あるよなというさ。アンタは長ドスでしょうと。

 「ゴルゴ13」は僕も観たけど、ゴルゴと言えばスナイピングとベッドシーンでしょ。どっちがなくても「ゴルゴ13」じゃないじゃん。だから健さんのゴルゴも嫌そうに白人のブヨブヨしたお姉ちゃんを抱いてたからね。箸にも棒にもかからないベッドシーン。

ひどい(笑)。

押井:「ゴルゴ13」の健さんは借りてきた猫みたいだったよね。あの人は軍人役もやってるし、軍が似合わないということじゃない。だけどやっぱり特殊部隊じゃないよなというさ。中堅の将校とかそっちだよ。まして松方弘樹が特殊部隊の隊長ってさあ。あれは本当に「アンタなんでそこにいるの?」って思ったよ。それに尽きるね。まだ「白昼の死角」をやった夏八木勲(※当時は「夏木勲」名義)のほうが役に合ってたんじゃないの。でも「白昼の死角」だといいんだけど「野性の証明」の大作感で言うとちょっとね……。でも当時もキャスティング難しかったろうな。

「野性の証明」での刑事役は悪くなかったですよね。

押井:夏八木勲の刑事はハマってた。あとは特殊部隊で原田大二郎がアサルトライフルで射撃するシーンがあるんだけど、これはよかった。「あ、この人は自衛隊員の役が合ってるわ」って思ったもん。まったく無造作にアサルトライフルの連射で相手を殺すシーンがよかった。そもそも日本映画でアサルトライフルというのは当時あまりなかった気がする。あれは向こう(アメリカ)で撮ったやつだよね。

国籍不明のアクション映画

押井:だけどさ、健さんがアサルトライフルで撃ちまくったとしても、松方弘樹がベルの206のサイドドアからM60で撃ってくるんじゃ、あきらかに勝負にならんでしょう(笑)。

そうなんですか。

押井:アサルトライフルでヘリを落とすなんて、基本的にはまず不可能だよ。絶対不可能じゃないけど。上空のヘリからM60で狙われたらまず生きていられないね(笑)。そのシーンははっきり覚えてる。誠に遺憾ながらヘリが撃ち落とされて岸壁かなんかに激突して大爆発という。そのシーンのヘリはあきらかにラジコン。

でしたね。

押井:「ブラックホーク・ダウン」(2001)のはるか以前の話だからね。昔はヘリといえば必ず爆発したんだけどさ。いまでもカプコンのゲームでヘリは必ず爆発するけど。「バイオハザード」に出てきたヘリは必ず爆発するというマニアの間では定番になってるわけだよね。「だってカプコンのヘリだもん」ってさ。それは関係ないんだけど、ヘリのシーンははっきり覚えてる。あとは結構うろ覚えなんだよね。「野性の証明」に関して言うと、やっぱり役者でしか記憶につながっていかないね。それがすべてかもしれないね、作品的に言うと。

僕は今回初めて観たんですけど、どこを目指してる映画なのかがよくわからないなあと。前半と後半で映画の質が違いますよね。松方弘樹とかが健さんを追いかけ始めてから全然違う映画になっちゃう。

押井:まあ、アクション映画だからね。いちおう日本映画の体を成していたんだけど、後半からほとんど国籍不明のアクション映画状態。ただそれでも当時は斬新というか、珍しかったよね。戦車だって東宝の特撮以外に日本映画で観たことなかったんだもん。

東宝特撮に出てくる戦車は、要するにミニチュアなわけですよね。

押井:駐屯地から出てくるところは実車だったけどさ。戦闘機も離陸するところまでは実機で、あとは全部ミニチュア。

当時は自衛隊も協力してくれなかったですからね。

押井:当たり前だけどね。でも陸自のなかにもゴジラ部隊というか、怪獣映画の度に協力する部隊があったらしいけど。映画で自衛隊の出番があるというのは東宝特撮ぐらいだったじゃない?

角川映画と言えば戦車が付きもの?

押井:そういえば、角川映画というのは僕の中では妙に戦車に縁があるという印象があるね。「ぼくらの七日間戦争」(1988)もそうじゃなかったっけ?

そうです。あれは同じ角川映画の「戦国自衛隊」(1979)のやつを使ってますね。

押井:「戦国自衛隊」のときに作った61式か。あれは日本映画が自前で作った戦車の第一号なんだよね。あ、「馬鹿が戦車でやってくる」(1964)っていうハナ肇の映画で、形式不明の日本軍の戦車が出てくるのがあったけど、どっちが古いのかな? それを「ぼくらの七日間戦争」で使い回したと。僕も「THE NEXT GENERATION パトレイバー」(2014~15)で使った90式は、実写版の「ガッチャマン」(2013)で使ったやつを使い回した。

そうなんですか。

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