押井:とにかくね、非常に表現主義というかインパクトを求めてたよね。火薬だ血だという暴力はかなりのレベルで、なおかつ規模もデカい。キャスティングも豪華だし。

角川ニューフェイスは三人娘

押井:なおかつ春樹さんが考えたのは「ニューフェイス」だよね。かつて東宝ニューフェイス(※東宝が1946年から1960年代後半にかけ、新たな俳優を発掘するために開催していたオーディション、及びその出身者)があって、各映画会社がみんなニューフェイスを売ったんだよね。東映にもいたからさ。健さんだって菅原文太だってニューフェイスだったんだから。みんなニューフェイスで青春スターで売ったんだもん。春樹さんはその時代の記憶がある人なんだよね。だから角川映画に必要なのはニューフェイスだと、自分のところから役者を出すぞというさ。アイドル女優を出すんだという、それが三人娘。僕は三人娘のうち、渡辺典子さんとは仕事をしたことがあるんだよ。

まだ現役なんですね。

押井:「ケータイ捜査官7」(2008~09)のときに、主人公のお母さん役で一回だけお付き合いした。と言ったって声の出演だけだけど。家出した話だから本編には出てこないの(笑)。(この回のお話は「三池監督曰く『押井さん、放映できれば何してもいいですよ』」を参照)

 それはともかく「野性の証明」は角川映画にとっては最初の正念場で、見事に成功したわけだ。薬師丸ひろ子の扱いも、「角川自身がニューフェイス、アイドル女優を作り出すんだ」という意欲に満ち満ちてた。結構評判になったからね。

「お父さん、怖いよ」ですよね。

押井:古いスターと新しいスターを親子にして逃避行をさせるというさ。で、その親子の向こうに戦車が数十台。

世代的に僕(野田)は角川映画というと、三人娘から後ぐらいしか印象にないですね。それより前の作品はTVの宣伝で見たなあというくらいで。

押井:僕は三人娘に全然興味なかったんだけど、なぜ覚えてるかと言うと、ブッちゃん(出渕裕)とゆうきまさみが原田知世の大ファンだったんだよね。

あと、マンガ家のとり・みき先生もですよね。

押井:とくにブッちゃんは頭がおかしいんじゃないかというぐらいに入れ込んでた。「天国にいちばん近い島」(1984)のときか。ブッちゃんとかとり・みきはロケ先のニュー・カレドニアまで行って追っかけをやってたんだから。

 それで忘れもしないんだけど、ヘッドギアの面々と、なぜかそのとき(兵藤)まこもいたんだよな。その面々で銀座かなんかで時間があったんで「首都消失」(1987)を観ようかってことになったんだよ。確か前売りチケットをやたらとばら撒いた映画で、映画館の前に安く売るダフ屋が出てたからね。それで映画館に入った瞬間に、ちょうど原田知世の映画の予告をやってたんだよ。

当時は今と違って入れ替えじゃなかったですから、どのタイミングでも入れましたよね。

押井:そしたらブッちゃんが開口一番「しまったー!」って絶叫したんだよ。「原田知世の予告編を途中から観てしまった」というさ。「首都消失」もすごい映画でのけぞりまくったけど、それが一番記憶に残ってる。

「首都消失」が87年の1月公開ですから、タイミング的には角川の「黒いドレスの女」(1987)ですかね。

押井:さすがに覚えてないなあ。

アンタなんでそこにいるの?

ところで、角川映画の中からどうして「野性の証明」を選んだんですか?

押井:角川が角川映画の地位を確定した一本だからね。べつに映画的に優れてるわけでもなんでもないけど(笑)。

映画的にはどうなんですか?

押井:映画自体にはツッコミしかないよ。健さんが陸自の特殊部隊というのが、やっぱりものすごい違和感あったよね。

やっぱりそうですよね(笑)。

押井:年齢的にも無理だから。特殊部隊と言ったら現役バリバリの体力絶頂期にやるものであって、四十過ぎたオヤジには絶対無理です。しかも松方弘樹が隊長やってるんだからさ。ヘリコプターのスライドドアのところでアサルトライフル構えて、目ん玉グリグリにしてたって「アンタなんでそこにいるの?」としか思えないよ。やっぱり松方弘樹にアサルトライフルというのが決定的に似合わない(笑)。アンタはドスでしょうと。よくてもリボルバーだよ。

それで言ったら、健さんは一応「ゴルゴ13」(1973)でアサルトライフルを経験してます。

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