押井:でも確証はないんだけどよく見ると、発砲してるところはアーマライトだったような気がする。キャリングハンドルがなかったから、M16というよりはアーマライトだと思う。リアルに発砲してた。もちろんカリフォルニアだからできたんだけど。あれはどう考えてもアメリカの銃だと思う。64式小銃をさすがにギミックであそこまで作動させるやつは当時なかったと思う。

細かいところまでよく見て、覚えてますね(※後日調べたところ、撮影で使われたのは64式にちょっと似ているアーマライトAR-18。映画では自衛隊がAR-18を使用している設定だったが、現実の自衛隊では制式採用はされていない)。

押井:僕は当時からそういうところを一生懸命見てたから(笑)。戦車だってさあ、M24とかM41だったらまだわかるんですよ。自衛隊でも使ってたから。東宝の特撮でおなじみだし、ウォーカーブルドッグというやつだよね。でもパットンはないでしょう、パットンは(怒)。

ミリタリーマニアとしては不満だと(笑)。

押井:それでも当時は「カリフォルニアで戦車を大量動員して、すごいロケをした」というんでさ、それなりに話題になった。そういう意味でもいろんなことやったわけだよね。

 「人間の証明」も松田優作がニューヨークでロケして、ジョージ・ケネディとか向こうの役者を使って、と結構なことをやってたよね。殺された息子の手がかりを探しにいくところだけど。そういうふうに日本映画の枠にはまらないことをやろうとしたわけだよね。必要なら海外ロケもするし、ハリウッドのスターも出すし。

「復活の日」(1980)もそうですね。

押井:「復活の日」もジョージ・ケネディだったかな。それでなおかつロバート・ヴォーンが大統領やってるんだからね。それと草刈正雄が並んでるという不思議な画だった。

オリビア・ハッセーも出てましたっけ。

押井:だからなんでもありだったんだよ。角川映画というテーブルにはなんでも乗っかるんだというさ。パットンだろうが潜水艦だろうがジョージ・ケネディだろうがオリビア・ハッセーだろうがロバート・ヴォーンだろうが関係ないよ。

では、それが映画として面白くなるかというと……。

押井:それはまた別の話だよね。「復活の日」のことを言っちゃうとさ、やっぱり草刈正雄がかすんじゃったもんね。全然役者としての格が違うんだもん。あきらかに位負けしてる。

正念場だった「野性の証明」

押井:「野性の証明」に話を戻すと、この映画は「角川映画はなんでも乗っけるんだぞ」の第一弾だった。後の角川映画に必要なことをすべてやってたよ。海外ロケで、大物俳優を出して、銃をバンバン撃って。その前の「人間の証明」は最初期の作品で、みんな成功するかどうか高みの見物を決め込んでたら大ヒットしちゃったんだよ。そして「野性の証明」のときにははっきり「角川映画」になってた。

 松田優作が「蘇える金狼」(1979)のときに「お、『野性の証明』見に行かなきゃ」とかアドリブでセリフ言ってるんだよね。映画館では大笑いだったけど。だから「野性の証明」のときに「角川映画」だということがはっきり認知されたんだよ。「人間の証明」の頃はまだみんな半信半疑だった。

麦わら帽子が出てくるのが「人間の証明」ですよね。当時は子供だったけど覚えてます。

押井:歌も覚えてるよ。「ママー、ドゥ・ユー・リメンバー」というやつ。さんざん聞いたからね。テレビスポットだって見ない日はなかったからね。どんだけスポット打ったんだよという。

 で、そういう意味で言うと、「野性の証明」のときは認知もされてたけど、正念場でもあった。「角川映画」として続けていけるのかどうかという正念場。だから健さんが主役であり、薬師丸ひろ子がデビューし、海外ロケもし、戦車も山ほど出し、バートル(※自衛隊でも使われるヘリコプター)は飛ぶわ、バイクのチェイスはあるわ、大盤振る舞い。

バイクシーンと言えば、舘ひろしが暴走族のリーダーでしたね。

押井:そうそう、三國連太郎(大場)のドラ息子。それが暴走族の頭をやってて健さん(味沢)を襲撃に来て、返り討ちにあって殺されちゃうんだよね。それで三國連太郎が逆上して健さんを殺せというさ。

 そして、その昔健さんが殺しちゃった村人の娘が薬師丸ひろ子で、それを養子にして育ててるんだけどさ、それが途中でバレるというか記憶が蘇るんだよね。父ちゃんを殺したのはこの男だというさ。

舘ひろしを殺すところを見て思い出します。

押井:健さんがマチェットで舘ひろしの頭を叩き割るんですよ。

そこだけ聞いてると、なんだか前回の三池監督の映画の話をしてるようなトンデモ感があります(笑)。血は結構盛大に出ていました。

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