押井さんがVシネを見てた90年代前半でも、すでに「麻雀とヤクザ」でしたよね。

押井:ほとんどそうだったけど、あの頃はまだ多少チャレンジな部分はあった。時々トンデモ作品があったんだよ。SFっぽいやつとか。サイボーグのお姉さんのアクションとかジャンルとしてはあった。面白かったのは一本もないけど。

あらら。

押井:残念ながら一本もなかった。僕の知り合いがやったVシネは聞いたら製作費がめちゃくちゃ安いんでびっくりしたけどさ。200万円とか。昔のVシネは2000万ぐらいで作ってた時期が一瞬あったんだよ。それがたちまち1000万になって、今は500万以下だよね。

平成のプログラムピクチャー

Vシネは70年代くらいまでのいわゆるプログラムピクチャーの代用品みたいな位置付けだったわけですよね。レンタルビデオ屋さんが全国にあって、映画を作ってレンタルに出すと500本とか1000本ぐらいは最初に出るから、それでなんとか回収するというビジネススキームがあったわけじゃないですか。でもそれも崩壊しちゃって。

押井:ここ数年でレンタルが配信に押されちゃってるからね。今レンタル店で映画を借りる人間ってどういう人なんだろう。僕が見始めた頃はVHSの時代で、今からすると夢のような世界だったよ。お弁当箱みたいな箱に入った映画がだーっと並んでて、よりどりみどり。しかもようやく値段もこなれてきたころでさ。最初は1泊2日で1000円とか平気であった。

ありましたね。

押井:それがどんどん値段が下がって、僕が一番見たころは3本で1000円しなかったと思う。VHSの頃に山ほど見たんだけど、DVDになってからはほとんど行ってない。とにかくVシネと欧米のB級映画専門で見てた。

そうやって手当たり次第に見て、面白い映画に当たる確率はどのくらいだったんですか。

押井:打率はだいたい20本見て1本ぐらいだから、5%切ってたね。たまに「おっ」というのがあるんですよ。「なかなかやってるじゃん」というさ。

手当たり次第としても、選ぶ基準はあったんですか?

押井:情報ゼロだからジャケットを見て決めるんだけど、僕の中で順番が決まってるの。まずおネエちゃんを見る。おネエちゃんのコスチュームを見れば映画の世界観がわかるから。ただのアクションなのか、SFっぽいのか、持ってるのがライフルなのか拳銃なのか。拳銃だったらだいたい警察もので、アサルトライフルだったりすると当然フィクション度が高い。あとは乗り物が出るかどうか。だいたいバイク程度しか出ない。出ても車でカーチェイスがちょっとあったりとかね。それと犬が出てるかどうか(笑)。これを基準にして借りてたわけ。基本的にはお姉さんが活躍するアクションものがメイン。SFの匂いがしたら問答無用でもれなく借りてた。

ホラー映画も結構ありましたよね。

押井:ホラーというのもジャンルとして結構需要があったんだけど、僕はホラーは怖いから絶対借りない。だからVシネのジャンルとしては、麻雀、ヤクザ、ホラー、あと軽いお色気もの。だいたいそんな感じと思う。それで僕が借りたのは基本的にアクションとSF。ヤクザはあんまり積極的には借りなかったんで、三池さんの作品ぐらいしか見たことない。

駄作もたくさん見れば役に立つ

ヤクザ映画は押井さんの好きな銃器がよく出てくるジャンルだと思うんですが。

押井:ヤクザ映画の銃器って、僕は全然評価してないから。なぜかというと、銃の世界観というものを持っていないから。どうせ拳銃しか出ない。せいぜいショットガンとか。そこにアサルトライフルを出そうと思った瞬間に世界が変わるわけだ。アサルトライフル基準に世界を変えなきゃいけないから、それだけ虚構度を上げなきゃいけない。そうすると映画的にどんどん難しくなってハードルも上がる。そこを知恵と勇気でどうやって乗り越えるのか、というのが僕にとっては一番見たいところだったわけ。

なるほど。

押井:だからB級映画とかVシネにこだわった。さっき言ったように20~30本に1本くらいは、知恵と勇気で強引になんとかしちゃった映画がある。そこに爽快感とか(映画の)自在感を感じるんだよ。「なかなか考えたね。よくやったじゃない」と。

 あと「無名だけどこのお姉さんなかなかいいじゃん。体も動くし、表情にもキレがある」とか、そういうのを見つけ出す楽しさだよね。

そのためにはダメ映画も山ほど観るわけですよね。

押井:だけど駄作も役に立つから。「このコスチュームがなぜダメなのか」とか、なぜダメになるのかを眺めてた。いつも言ってるけど、傑作を見ても何の勉強にもならないから。駄作とか失敗作とか珍作には「そうなった理由」があるわけだよね。その理由を知りたくてだいたい見てる。「そっち行っちゃダメでしょ」とか「なんでアンタが出てくるんだ」とか。

VシネとB級映画は、どっちが多く見てたんですか?

押井:借りてたのは7割はB級映画で、3割ぐらいがVシネかな。夜中に音を消して見てるんで、字幕があるのが一番都合がいい。さすがに日本のやつは音を消しちゃうと話が全然わからないけど、だいたい想像はつく。スーツもののアクションなんかセリフ聞いても聞かなくても一緒だもん。「おっ」と思ったらイヤホンを持ち出して、もうちょっと本気になって見る。そういう時代が3年ぐらいあったのかな。ほとんど覚えてないけど、数だけはすごい数見たと思う。

でしょうね。

押井:僕はとにかく「映画は数を見ないとダメだ」という主義なんで。数を見ることで相対的に視点というのが生まれてくる。ちょろっと何本か見たって何もわかりゃしない。特にジャンルというのは、ジャンルの中でいかに作るのか、どう演出するのか、どう成立させるのかという、監督にとっては知恵の宝庫だから。Vシネははっきり言ってダメなサンプルのオンパレードだけど、だからこそ見る価値があるんですよ。

駄作は数多く見るからこそ意味がある、ということですね。まだお話が続きそうですので、今回は3回に分けてお送りしたいと思います。

(次回は7月30日木曜日掲載予定です)

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