押井:芸能者である限り、お金を払って見てもらって、それで食ってるんだから面白がらせる義務がある。だから僕なりに「面白いでしょ?」ということをやってるわけだよね。「なんだかんだ言ったって最後まで楽しく見れるように作ってますけど、何か問題でも? まともな映画じゃないかもしれないけど、いちおう最後まで見れて面白かったでしょ」というさ。それでもなおかつ「金返せ」という人に対しては「ご愁傷さまです」と言うしかない。「アンタが自分で選んで見たんでしょ。それが嫌だったら次から見てくれなくてもいいから」と。そのぐらいのことは言ったっていいでしょ。だってどうせ1800円とかしか払ってないじゃん(笑)。

1800円しか、って、まあそうですけど(笑)。

ルールと面白さの優先順位

押井:「サブウェイ・パニック」(1974)という映画の有名なセリフがあるんだよ。地下鉄をジャックする強盗の話なんだけど、地下鉄の運行をやってる変なオヤジ、安全管理官かな? この人が「人質がまだいてどうのこうの」って強攻策に出ない警部補のウォルター・マッソーに「どうせ10セントの客だろうが」って言うんだよ。すばらしいセリフだなと。

ひどい(笑)。

押井:本音を言えばみんなそう思ってるんだよ。クルーズ船の客だろうが地下鉄の客だろうが、別に命を賭けてるわけでも何でもない。ただの利用者だよ。しかも自分で選んでるんだから、ちゃんとリスクを考えて乗ってるんでしょ?(笑)それに比べたら映画を見るリスクなんて屁みたいなもんじゃない。2時間我慢すればいいんだから。なんだったら途中で出たっていいんだから。

 あ、「面白くないから金返せ」っていう理屈は通らないよ。「お代は見てのお帰りだ」とはひと言も言ってないじゃん。ちゃんと自分でネットで予約して見たんだよね。

今どきは事前にいろいろ情報が流れてきますからね。

押井:まあ、某社とかは宣伝で相当嘘をついて「これだったら怒ってもしょうがないな」というのは一度ならず二度三度ぐらいはあるけどね。この看板とかポスターとか全部嘘でしょというさ。「ケルベロス」とか「トーキング・ヘッド」(1992)とか詐欺じゃん。「トーキング・ヘッド」のポスターなんて、そもそもアニメ映画にしか見えない。冒頭で何十秒かアニメーションやってるだけなのに。あれは本当に出てきて怒ってる客とすれ違ったもん。「アニメじゃないじゃないか!」とか言って。

美樹本晴彦さんのデザインしたキャラクターがポスターのメインでしたからねえ。

押井:まあ、そんなこともあったりするんだけど、要はデタラメをやっても因果律を無視しても、映画のルールを全部ことごとく破っても、とにかく面白く見れればいいんでしょというさ。優先順位はどっちが上なのか。

なるほど。

押井:ルールを守って退屈なものを作るのか、ルールを無視で破綻しまくってるけど本当に面白かったよなと言わせるのか。どっちをエンターテインメントと呼ぶんだと。日本の映画監督ってそういう意味で言うと、どこかそういう意識が薄い気がする。映画監督は作家じゃないんだよ。小説家でもなければ文学者でもないんだから、深刻なドラマを撮ってれば偉いわけじゃないでしょ。

 でもなんか知らないけど日本映画ってだいたい、うちの奥さんの言い草じゃないけど9割までは陰々滅々としてるよね。奥さんは「日本映画は見ない。本当に暗くて私、大嫌い。そもそもセリフが何言ってるのかわからないし、アパート出たり入ったりしてるだけじゃないの」といつも言ってるよ。

よく分からないようでいて、実に的を射ている例えの気がします(笑)。

押井:陰々滅々とするくらいだったら、面白いデタラメの方がいいじゃない。いきなり■ズ■■を出そうが、■を一本引きちぎろうが、■■が爆発しようがさ。「DEAD OR ALIVE 犯罪者」はそういう映画。

呆気にとられて大笑いしますけどね。

実はまだ作られているVシネ

押井:三池監督はVシネで名を上げた監督で、Vシネというジャンルはその当時は盛り上がったけど、今はほとんど見る影もない。でも実際はまだ結構作ってるんだよ。

そうなんですか?

押井:僕の知り合いの監督とか助監督とか、ちょこちょこやってる。Vシネをやってない監督の方が珍しいかもしれない。

レイトショーかなんかでちょろっと公開して、メインはビデオで売るよ、みたいなビジネスですか?

押井:いや、前回言った「アパート出たり入ったりして、若い男と女がネチネチする」ような映画はビデオなんか出ないよ。日本映画専門チャンネルとかで見ても、だいたい「未ソフト化」って書いてある。

じゃあ製作にかかったお金をどこで回収するんですか?

押井:いや、僕もどこで回収するんだろうと思うんだよ、本当に。日本映画専門チャンネルが放映権いくら出すと思う? 50万円だよ。

50万円でも高いと思いますよ。

押井:今はもっと安いかもしれないね。2回放送で50万円。聞いてびっくりしたもん。それしかないんだったら、製作費なんて回収できるわけないじゃん。あとは単館とかレイトショーとかで上映するとか、だけどどう考えたってそれも回収できないでしょ。ソフトなんか出す根拠がない。だって知ってる役者もほとんどいないし。脇ではおっさんとかおばさんで名のある人たちがちらほらいるけど、主役は「誰これ?」でしょ。画面は暗いし、暴力もなければエロもない。

 そういう意味で言ったらVシネの世界と単館系のインディーズとは別世界だよ。Vシネというのはもっと徹底してるから。今は売れそうなものしか作らない。それは何かと言ったら「麻雀」と「ヤクザ」。これで綿々と作ってる。

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