押井:アクションの話はともかく、「なんでもやっていい」というのは意外に難しいものだなと思ったの。だからよりどころを求めて寺山修司にしたの。なんでも、と言われても、やっぱり何か芯がないとできないから寺山修司の世界にして、家出少年と旅芸人のお姉さんの話。寺山修司の詩も引用しまくった。

アナーキーな「開き直り」

先ほど「三池さんはいろんな映画をやってて、でもどれも三池さんらしい」とおっしゃいましたけど、それって例えばどういうことが三池さんらしいんでしょうか?

押井:僕がやってるデタラメと、三池さんのデタラメはたぶん違うんだと思うんだよね。おそらく、動機みたいなものが違う。僕は映画の中でどれだけ自在感を実現できるかということにすごく興味がある。どこまでやったら破綻するかとか、因果律をどこまで無視しても成立するのかとか。そうやって突き詰めていくとすると、映画を成立させているものって何なんだろうか、ドラマや因果律を無視しても結果的に面白く見えちゃうのはどういうことなんだろう、と。清順の映画を見てる頃からずっとそういうことを思ってた。このデタラメな映画の面白さの「根拠」って何なんだろうって。

鈴木清順の映画は、登場人物がギャグっぽいことをやってるわけではないですもんね。

押井:ただ単にコントをやったら面白いというわけじゃないんだよ。「大真面目にやってて変」だからすごく面白いわけだよね。わっはっはという面白さじゃなくて、なんとも言えない面白さがある。「えー?! そっちに行っちゃうの?!」というさ。これは意外に難しい。映画に関して相当いろいろ考えてないとできないと思う。

何も考えてないようで、いろいろ考えていると。

押井:一方で三池さんの映画は、理屈もあるのかもしれないけどもっとアナーキーな何かを感じるんですよ。天然っぽい気がする。そうしなきゃいけなかった理由とかは特になかったんじゃないかな(笑)。「DEAD OR ALIVE」を見てるとそう思う。撮影の制約があったからとか、そういうのもないはずだし。

 「漂流街 THE HAZARD CITY」(2000)という映画で、どう見てもアメリカ西部の荒野で囚人護送車を襲撃するシーンなのに平気で「埼玉県」ってテロップ出しちゃう。

ここのどこが日本だ、という。

押井:そういうデタラメさだよね。他にも新幹線の映画を撮るのに台湾行って撮ったり(「藁の楯」2013)とか。日本ではJRは絶対協力してくれないし、じゃあセットを組むのかってそんな金どこにあるんだと。いろんな理由で開き直っていろんなことをやることが映画にはある。「どうせ開き直るんだから面白くやっちゃおうぜ」って。そういうのを見ると三池さんらしいなと思う。

面白ければいいだろう、という「開き直り」が三池さんらしさだと。

押井:最初はもしかしたら映画的な制約とどう戦うかということだったのかもしれないよね、予算だったりスケジュールだったりロケ場所の制約だったり。でも、そこで開き直っちゃったわけだよね。そうすると結構面白かったりする。「あ、これでも別にOKじゃん。最後まで面白く見せればいいんだろ?」というさ。

結果オーライだと。

押井:最近はぬいぐるみが気に入ったみたいで、やたらぬいぐるみというか着ぐるみが出てきたりとか、高島(礼子)さんに男の役をやらせたり(「極道大戦争」2015)とか、エスカレートしてるじゃん。どこまでやったら破綻するか試そうとしてるとしか思えない。例のゴキブリ(「テラフォーマーズ」2016)とかね。(菊地)凛子とか(太田)莉菜とか出てたけど、昆虫のすごいメイクで本人を知ってなきゃ誰だかわかんない。しかもあっさり殺しちゃったし。三池さんがやってるのを見ると無邪気というか楽しそうなんだよ。僕はといえばさ、これでもいろいろ考えてやってるわけ。

押井さんも現場では結構楽しそうに見えますよ。

押井:実際に撮影するときはもちろん面白がってやってるんだけど、根拠を求めた上でのデタラメをやってるんだよ。でも三池さんを見てるともっとアナーキーな気がする。同じようなことをやっているように見えるかもしれないけど、微妙に温度差があると思う。

映画監督は「芸能者」だ

押井:最初に会ったときかな。「三池さん、なんでこんなにいっぱい仕事するんですか?」って聞いたことあるんだよ。ひどいときは3本掛け持ちとかやってたからね。そしたら「仕事が来なくなるという恐怖感から逃れられないんだ」って言ってたの。苦労人なんですよ。

押井さんも作品の間隔が開くときがありますが、焦ったりしないんですか?

押井:僕も仕事が来なくて苦労したことはあるけど、そういう危機感を持ったことはない。「どうせ2~3年待てばなんか来るさ」って思ってたし、実際今までその通りだった。だから仕事が来るまではゲームとか本書くとか違うことをやろうかなと。

「2~3年」は待つには結構長いと思います(笑)。

押井:でも三池さんはそういうのとはちょっと違うみたい。職業監督だという自己規定があるんだよね。

押井さんは違うんですか?

押井:僕は「エンターテイナーだ」と言い張ってるんだよ。誰も信じてくれないけど。でも少なくとも芸術家ではない。いつも言ってるけど映画は芸術じゃないから。じゃあなんだっていうとさ、まあ「芸能人」じゃないんだよね。自分を商品にしてないから。でも芸ができてることは間違いないよね。だから「芸能者」と言ってるの。単純に「芸者」と言ってもいいんだけどさ、芸者と言うとチントンシャンになっちゃうし。もっと言うと、芸者って武芸者のことだった時代もあるんだよね。宮本武蔵とかあの頃の話だけど。だから芸者じゃ誤解を招くから「芸能者」と言ってるの。

芸を見せてるけど「芸能人」じゃないと。

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