押井:ものすごく優しい人。「押井さん、もう何やってもいいですから、思い切りやってください!」「そうですか。本当にじゃあ思い切りやらせてもらいます」って。それで、家出の話だから全部熱海でロケ。あの仕事は大変だったけど、本当にめちゃくちゃ楽しかった。

バラ色だったテレビドラマ

押井:テレビドラマは初めてやったんだけど、6日間で2本撮らなきゃいけないと。だから1本を3日ぐらいで撮らなきゃいけない。しかもロケだから、すごい勢いで撮ったよ。カット数で言ったら1日で200くらい回してるんじゃない? それが逆に面白かった。テレビドラマはどうやって撮ればいいのか途中でやっと分かったね。

映画とどこが違ったんですか?

押井:映画みたいに引いちゃダメなんだよ。映画は世界を撮るんだけど、テレビドラマは役者を撮らなきゃダメ。もっと寄れという話。それがわかったら途端に楽ちんになったし、楽しくなった。「この絵を撮っておかなきゃ」というのはいっさい関係ない。まず芝居をやってみてもらって、面白そうなところに寄るだけ。

 コツをつかんでチャッチャカ撮り始めたら本当に楽しくなった。後は風呂入って飯食って、しゃべりまくってるだけだからさ。スタッフも大喜び。1週間熱海でロケして、しかも僕はナイター(夜間の撮影)は嫌いだからほとんどなかったし。夜は飲みに行ったり、砂浜で相撲大会やったり、毎日がバラ色。

すごいですね。部活の夏合宿みたいです。

押井:みんなが喜ぶのも分かるよね。普段クソ暑いセットでギュウギュウでやってるんだもん。合成だらけだから手間暇も大変だし。僕は合成なんかほとんどやらなかったから。ピンポンのラリー60秒とかやって、それでデジタルシーンは使い果たした(笑)。当たり前だけどラリーは続かないから、球は全部CG。なんせロボットは出ないんだからさ。1カットくらい出したけど、引き出しの中で退屈だからルービックキューブをやってるだけ。とにかくデタラメをやるっていうのは楽しいんだよ。「なんでもOKよ。デタラメやってね」と最初から言われると妙にやりづらくもあったけど、楽しんでやった。

そりゃそうですよね。

押井:理想を言えば、ふたを開けるまで誰もわからないみたいな、「これは真面目な映画なんだろうな」とか「普通だよな」と思ってたらとんでもないことになっちゃった、と。それが理想なんだよね。「すいません、こんなんになっちゃいました」で、プロデューサー激怒というさ。それの方が監督的にはたぶん快感原則に近しい。

普通の仕事は全然来ない

前回の連載(日経ビジネスオンライン「押井守の『勝つために見る映画』」、現在公開停止中、単行本は『仕事に必要なことはすべて映画で学べる』)で、押井さんは「監督の勝利条件は次回作を作る権利を担保することだ」とおっしゃってましたよね。そういう、ラインから外れた無茶苦茶をやったらそれこそ干されそうなものですけど、なぜそうならないんでしょう?

押井:逆に言えば、じゃあなぜ三池さんが僕に声をかけたのか。「あいつはなんか変なことをやる男だ」って思われてるわけでしょ。だからそういうふうな需要が生まれるんだよね。

 僕は40年も好き放題にやってきて、本当に嫌々やった仕事は一本もないからね。みんな好きにやっちゃった。なぜ続けてこれたかって、逆に言えばそういうふうなことになっちゃってるから。「あの監督はそういう監督なんだ」と。

「変な監督」の枠ですか。

押井:その代わり、普通の仕事はもちろん全然来ない。いくらやりたくたってVシネの話が僕に一回も来なかったのはたぶんそういうことだよ。普通の仕事は来ないけど「なんか変なことをやらせたいな」と思ったときに、確実にリストに上る人間ではあるんだよ、たぶん。あとは「得意技の世界」があったりするからかな。それはアクションだったりとか。そういうもんだよね。僕はアクションは嫌いじゃないけど、本当を言うと好きでもない。撮るのが面倒くさいし。

えー?(笑)

押井:だって本当に面倒くさいよ。「THE NEXT GENERATION パトレイバー 首都決戦」(2015)のときも「アクション撮るのだるいな」って辻本(貴則)にB班作らせて、アクションは全部やらせた。かわいそうにオールナイターで、2週間だか3週間だかめちゃくちゃ寒い倉庫みたいなところで、昼夜逆転でひたすらアクション。

確か現場は製紙工場ですよね。

押井:そうそう。私は一回も行かなかったからね。

ひどすぎる(笑)。

押井:「俺の現場でミスを犯した演出部の人間はあっちの現場送りだ」って。

そんな島流しみたいな(笑)。

押井:そうそう、シベリア送り(笑)。「東部戦線に送るぞ」みたいな。寒いから絶対行きたくなかったもん。漏れ聞こえてくる話を聞くと本当に悲惨な現場になってたらしいし。アクション好きな奴が撮ればいいじゃん。辻本自身はキャッキャ言って撮ってたんだから適材適所だよ。銃撃ち放題、火薬使い放題で夢のような世界じゃん。

優先順位の問題ですね。

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