「007は二度死ぬ」では、若林映子さんもボンドガールでした。
押井:そうそう。若林映子は我々の年代にとっては金星から来た預言者だった(笑)。キングギドラの時(「三大怪獣 地球最大の決戦」64)に出てくるの、預言者で。なぜか知らないけど気を失って運び込まれたあと、医療ベッドの上にシーツだけで横になってるんだよ。僕は当時中学生ぐらいで、盛大に盛り上がった。「あの服を脱がせたのは誰だ?」って。気を失ってる女を医療措置のために裸にするというのは一大テーマだったのね、映画の世界では。見せ場だったんだよ。
はあ(笑)。
おばさん上司の強さにしびれる
押井:「ロシアより愛をこめて」では、ジェームズ・ボンドと戦う殺し屋ロバート・ショウ(俳優名。役名はレッド・グラント)がKGBの秘密兵器として腹筋モリモリで出てくるじゃん。
あの登場シーンがいいですよね。
押井:腰にタオル一枚で女はべらせて日光浴しててさ、そこにスペクター幹部のおばさん(ローザ・クレッブ/女優はロッテ・レーニャ)が閲兵に来て「立ってみろ」っていきなり言ってさ。おばさんがメリケンサックはめて、振り向きざまに腹に一発くれて、でもびくともしないんで「こいつは強そうだ」って、すばらしいシーンだよね(笑)。しびれたもん。かっこいいおばさんという。
ロバート・ショウじゃなくて、そっちですか(笑)。
押井:ロバート・ショウはどうでもいいの。あのおばさんがすごい。しかも映画の最後では掃除のおばさんに変装して出てきて、見せ場もちゃんとある。毒ナイフを仕込んだ靴でボンドを窮地に追い詰めるからね。歴代の悪役の中でも、あの方は特筆すべきおばさんですよ。
KGBではダニエラ・ビアンキの上司で、えらそうにしてましたよね。
押井:KGBだけどスペクターの幹部でもあるという。いろんなところに籍を置くのがスパイだから。あのおばちゃんからすればダニエラ・ビアンキは小娘だよね。あきらかにそういう目で見てる。生贄の羊を眺めてるような目。それがなんか知らないけどすごくエロい。エロジジイじゃなくてばあさんがやるところがすごい。
確かにそうでした。
押井:あのおばさんがしげしげと体をチェックするんだよね。やり手ばばあだよ。しかも作戦が失敗したと分かったら、自分で暗殺に行くし。全部終わったと思って太平楽を決め込もうとしていたボンドに襲いかかるというさ、おまけのレベルを超えてるよ。
ロッテ・レーニャさんはオーストリアの女優さんですね。
押井:たぶん筋金入りの女優だよね。
女性上司と言えば、007の上司であるMも女性の時期がありました。
押井:ボンドみたいなやつを押さえつける、上司のMというのは途中(「007 ゴールデンアイ」95)からおばさんになったけど、変わったときはみんな「え?」って思ったよね。
それまではずっと男性でした。
押井:もともとは皮肉たっぷりの老紳士だったわけで「やばそうだからお前が行け。やりすぎるんじゃないぞ。責任は取ってやるから」と。Mもイギリスの典型的なジジイだったから、女性になって最初はすごい抵抗感あったよね。「いいの、このおばちゃんで?」とか思ってたけど「スカイフォール」でころっと意見が変わった(笑)。
女性である意味が、ようやくあそこで描かれましたね。
押井:あれを見て「Mは、マザーのMか」と初めて納得したんだよ。「なるほどね。それがやりたかったのか」と、ようやくそこで伏線が効いてきた。あの作品はあきらかに放蕩息子の帰還だからね。「どこ行ってたのアンタ!」って。再テストしたら案の定ボロボロだったけど、まあいいやって母ちゃんが無理やりに合格にしちゃった。
しかも、実は長男がいたという話じゃん。長男は母親に見捨てられて、恨んで母親を殺しに来るのを次男坊が助ける話。すごい話だよ。これがやりたくてMをおばちゃんにしたのかどうかは分からないけど。
女性がMになって20年近く経ってますから(笑)。
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